第30回 「ジェンダー平等 (gender equality) 」と「男女共同参画」
通訳をしていると、英語で伝えられる事象とその邦訳にあたる日本語での記述に、理解の差異があるのではないか、としばしば首を傾げることがあります。「ジェンダー平等 (gender equality)」 と「男女共同参画」もそのひとつです。もっとも、 生物学的に異なる存在である男女間に平等はあり得ないと言ってしまえば、英語の表記自体が不自然であることなりますが…。「生物学的な差異故に社会的に平等でないことは公平ではない。男性であれ、女性であれ、人として公正に扱われることが望ましい」と言う意味であれば、「equality」ではなく「equity」 が使われても良いはずですが、ついぞ、「ジェンダー・エクイティ(gender equity)」という表現にはお目にかかりません。
英語での「 ジェンダー」とは、「男らしさ、女らしさ」というような男女の属性を表すときに使われますが、もともと英語で「sex」と表現されていた生物学的な男女差や属性の意味で「ジェンダー」が用いられるようになったのは、性科学者・心理学者のジョン・マネー(John Money)によるとされています。それまでは、言語学上の用語であった「ジェンダー」ですが、社会的な意味を持つ言葉として広範に使用されるようになったのは、フェミニスト運動が盛んになった1970年以降のことです。
日本の政府内には、男女共同参画社会を形成すべく同名の局が設置され、係る基本法が制定されています。また自治体にも、「男女平等共同参画」と銘打ったセンターなどが各地に設けられています。
以前、このテーマに関する会議の通訳をしたとき、スウェーデンから来日していた話者が「『gender equality』とは『共同参画』というようなことではない。例えば、議会において女性議員が男性議員と同数であること、ビジネスにおいて女性の管理職が男性と同数になることです」と言っていたことを思い出します。
同じような言葉を用いても、その概念に対する認識や理解がずれてしまうことが多くあるような気がします。
原 不二子
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