INTERPRETATION

第26回 和の「こころ」と英の「マインド」

原不二子

Training Global Communicators

どの文化においても、また言葉が違っても「ネコ」は「ネコ」であり、「トリ」は「トリ」なのでしょうが、とりわけ「人の心」や「精神」のこととなると、通訳をしていて壁にぶつかったことのある方も多いと思います。

例えば、私たちは「心」という言葉の境界線がどこにあるのか、よく迷うことがあります。辞書には「精神的特質」や「心性」を表す言葉として「the human heart」、「human psychology」、「a mentality」、「the mind」、「the emotions」、「feelings」 など、「心理」、「知能」、「知力」、「精神力」の広範な概念が含まれ通訳者を泣かせますが、英語でも「マインド(mind)」という言葉は、「精神」、「心」、「意識」というように幅広い意味で使われるのです。

ロンドンの地下鉄で車掌が「Mind the gap!」と声をかければ、「ホームと電車の間があいています。注意してください。」という意味ですし、「to have a sound mind」と言えば「正気」のこと、「I will put my mind to it」は「本気でやる」、「My mind is all over the place」は「気が散って考えられない」という解釈になります。

しかしながら、英語は意味が明瞭であり、曖昧さが多い日本語とは異なります。言葉は使う人、使われる状況、それを受け取る人によって幅広い含蓄があるわけです。とすれば、辞書はあくまでも参考にしかならず、相手と状況に応じて最も適切な言葉を選ぶことのできる通訳者がコミュニケーションに長けていると言えるのではないかと思います。           

原 不二子

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原不二子

上智大学外国語学部国際関係史研究科博士課程修了。 祖父は「憲政の父」と呼ばれた尾崎行雄、母は「難民を助ける会」会長の相馬雪香。母の薫陶により幼い頃からバイリンガルで育ち、21歳の時MRAスイス大会で同時通訳デビュー。G7サミット、アフガニスタン復興会議、世界水フォーラムなど数多くの国際会議を担当。AIIC(国際会議通訳者協会)認定通訳者で、スイスで開催される世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、ILO総会の通訳を務め、最近では、名古屋における生物多様性(COP/MOP)会議、APEC女性リーダー会議、アジア太平洋諸国参謀総長会議、ユニバーサル・デザイン(IAUD)会議、野村生涯教育センター国際フォーラム等の通訳を務めている。

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