INTERPRETATION

Vol.8 「 翻訳とは、私を育ててくれるもの 」

ハイキャリア編集部

多言語通訳者・翻訳者インタビュー

【プロフィール】
殷美卿さん
Eun mi Kyung
淑明女大文科大學國語國文學科(韓国、ソウル)卒業後、東部グループ広報室に勤務。1998年来日、KBS World Net日本通信員、翻訳者、ライターとして活躍。現在は、出版翻訳に携わる傍ら、日本の食文化を紹介する本<東京3S>を韓国で出版するなど日本のことを韓国に発信。そして慶應義塾大学付設慶應外国語学校などで韓国語講師をつとめながら、ハニー韓国語教室を立ち上げて韓国語の楽しさをどんどん広げている。

日本語を勉強しようと思ったきっかけは?
大学卒業後勤務した会社では、無料で日本語を勉強できたんです。半年ぐらいクラスを受けました。その後全く何もやっていなかったんですが、1998年に夫が文部省の国費留学生として、日本に行くことになったんです。私もついていくことになったので、行くからには日本語を勉強しないとまずいよなと思ったわけです(笑)。

1998年2月に来日されたんですね。
基本的な日本語文法は本で学んでいたものの、大変でした。ボランティアセンターで勉強し、自宅で毎日復習しました。学校に通っていなかったので、何か自分で目標を決めないと勉強も続かないだろうと、12月に日本語能力検定1級を受けることにしたんです。結果、1回で合格できたときは、とっても嬉しかったです!

通訳翻訳を仕事にしようと思ったのは?
子育てをしながら何かできないかと考えていた時、翻訳がいいんじゃないかと思ったんです。韓国でも記事を書いていたので、物を書く仕事が一番向いているだろうなぁと。以前、知人に頼まれてちょっとした翻訳や、韓国テレビの取材を行ったのですが、本格的に仕事としてやってみようと思ったのは、出版社に勤めている知人の一言がきっかけでした。「日本で何か面白い本があったら、送ってくれないか」と言われたんです。自分なりに選んで送ったところ、出版社が版権を買うことになったんですよ。あれよあれよという間に「じゃあ、翻訳してくれませんか?」という話に! ただ、本を送っただけだったのに、まさか自分が翻訳することになるなんて。その本が韓国でベストセラーになったんです。私、自分でも本当に運がいいなぁと思うんですが(笑)。

仕事で感動したことは?
何冊か翻訳しているからかもしれませんが、全く知らない人が、私の名前を知っていることです(笑)。突然、韓国のラジオ局から電話がかかってきて、「生放送なんですが、コメントをお願いします」と言われたこともあります。翻訳本を通して、こんな風に人とのつながりができるのは嬉しいです。

出版翻訳の面白さとは?
「発見」です。私自身、子供の教育関係の本が好きなのですが、中でも平井信義さんの教育哲学には感銘を受けました。彼の本を読んだとき、私はなんてダメな親なんだと反省し、それ以来夫婦で子供に対する接し方を見直すなど、いろいろと考えるきっかけを与えてもらいました。私にとっては、とても大きな出会いでした。
どの本を翻訳しても、心に残る言葉が必ずあるんです。その言葉を見つけたときは、すごく幸せですし、その感動を味わいたいからこの仕事を続けているのかもしれませんね。知識を得られることはもちろんですが、翻訳は私を成長させてくれるものなんです。これまでも、趣味で吉本ばななさんの本や、『ぽっぽや』を翻訳しました。もちろん外には出しませんが、自分で勉強するためです。本は、いろんなことを教えてくれますからね。

「韓国でベストセラーになった本」

昨今の韓流ブームについて、どう思われますか?
嬉しいです。以前は、本屋さんに行っても韓国関係の本なんてほとんどなかったんですよ。たまに、韓国ですごく有名な本が少し置いてあったぐらいで。最近は特設コーナーまでありますものね(笑)。ここは本当に日本? と思うぐらい。韓国料理のお店や、韓国語を勉強する人も増えましたよね。私にとっては嬉しい限りです。

韓国語のサークルを主催されていると伺いましたが。
韓国語で遊ぶサークルです。2000年に立ち上げました。両親は韓国人だけど、子供が全く韓国語を話せないことが多いんですよ。周りの友達と自分が「違う」ことの恥ずかしさ、文化的なこともあるのかもしれませんが。そういった子供達に、サークルを通して韓国文化の素晴らしさを伝えられればと思い、活動を始めました。毎週、韓国語で歌を歌ったり、ゲーム、演劇、山登りと様々なレクリエーションを行っています。自然に交友関係が広がっていったら楽しいなと思います。

現在の1週間のスケジュールは?
子供を学校に送った後、1日中翻訳をしています。今翻訳している本が終わったら、次の本が待っているんです。月曜日は学校で韓国語の授業、日曜日はサークルなので、実質家族と出かけるのは、土曜日ぐらいですね。

「現在翻訳中の本」

今後もずっと翻訳者で?
もちろんです。翻訳って、私をすごく喜ばせてくれる仕事なんです。自分の思想に反する文章を翻訳するときは、つらいなと思うこともありますが、これも仕事ですからね。これからも続けていくと思います。

【編集後記】


初めて翻訳した本が、ベストセラーに! 「自分では意識していませんが、外から見たらやっぱり外国人なんですよね。海外で暮らす上で、どうしたらよりハッピーでいられるか常に考えています」と殷さん。殷さんの翻訳、教育、サークル活動を通して、韓国文化がもっともっと広がりますように

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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