Vol.22 河野 愛子さん「バランスが大切」
今回はドイツ語通翻訳者の河野愛子さんにお話をお伺いしました。もともとは英語が大好きでドイツ語のドの字にも興味が無かったと語る河野さん。ドイツ語と出会うきっかけとなったのは、当時大好きだったロックバンドだったとか。何に対しても全力投球で、お仕事、プライベート共にとても充実している河野さんからのアドバイス、お勧め情報満載です。
【プロフィール】
河野 愛子さん Aiko Kawano
神奈川県立外語短期大学・英語科卒業。英会話講師、生命保険会社勤務を経て、ドイツ・ビーレフェルト大学に留学。その後、ドイツ・フライブルク大学に編入し哲学学科言語学専攻を卒業。その後帰国し、東京ドイツ文化センターの通訳者養成コースに進み、通訳業をスタートする。現在も、フリーランスドイツ語通訳・翻訳・ドイツ語講師と、幅広い分野にてご活躍中。
Q. 語学に興味を持たれたきっかけは?
私は20歳まで日本を出た事がなく、中学の時に初めて英語を習い始めました。それが不思議な事に、理科や数学はどんなに頑張っても全然出来ないのに英語だけは特に努力をしなくても成績が良かったんです。先生や周りにもよく褒められていました。それが嬉しくて、褒められれば褒められるほど、どんどん英語に力をいれて一生懸命勉強しましたね。高校も県内の英語科のある学校を選びました。他の科目よりも英語の授業が圧倒的に多く、自分の得意な勉強がたくさん出来るので本当に楽しくて、どんどん英語力が伸びていきました。そのころから洋画やテレビで外国の映像などを見てドキドキしたりと、外国への憧れがあったものの、留学しようとは思っていませんでしたし、ましてやドイツのドの字も頭にありませんでした。ただ早く仕事に就きたくて、大学もあえて短大の英語科に進み、卒業後すぐ社会人になりました。
Q. ドイツに目を向けられたのはいつごろからですか?
会社勤めをしていた時、ドイツのロックバンドにハマっていたんです(笑)。有給を取ってはドイツまでコンサートを見に行くようになりました。毎回短期旅行でしたが、旅行に役立つくらいのドイツ語を覚えたいなと思ったのと、ファンレターをドイツ語で書きたいと思って勉強し始めました。すると面白いように返事が来たんです。それから早く返事が欲しくて一生懸命手紙を書くようになったんです。会社に行く前、昼休み(ランチは5分で食べました)、仕事の後から夜中まで、休日など暇さえあれば必死でドイツ語の勉強をしていましたね。家での勉強だけでなく、ドイツ語の学校にも通っていました。英語の基盤が出来ていたこともあり、わりとすんなりと短期間で吸収できました。そのうち周りからも褒められるようになったんです。それがまたバネになり余計頑張りましたね(笑)。会社勤めをしながら3年間くらい勉強をしていたので、その頃にはファンレターの域を超えて、ドイツ語の魅力に魅かれていました。自然と、ドイツに住み長期にわたりじっくり腰を据えて勉強してみたいと思うようになりました。それで会社を辞め、ドイツの大学に留学したんです。
Q. 実際ドイツの大学で勉強されていた時のお話をお聞かせ下さい。
私がいたフライブルクという町は、小さ過ぎず大き過ぎず、自然も豊かでとても居心地が良かったです。大学も素晴らしかったですし、勉強するのにも住むのにも最高の環境でした。ただ、文化の違いには大変苦労しました。私はどっぷり日本に浸かって育ったので、受け身の教育に慣れていて、自己主張するのが得意なタイプではありませんでした。逆にドイツ人は常に議論を求め、何も発言しないのは何も考えていない、何も意見を持っていないととられるんです。そこで意見を言うと、その理由は?とどこまでも突き詰められるんです。はじめのうちはそれが本当に辛くて、自己主張、ましてやドイツ語で議論するのが大変でした。でもだんだん慣れてきたら、それは正しい事なんだと思うようになりましたね。カフェでコーヒーを飲んでいても、映画を見ても、結局熱い議論になるので、何でそこまで!?と思ってついていけなかった時もありましたけどね(笑)。学習面では、会社勤めしていた時にドイツ語にかける時間が限られていたので、ドイツで全ての時間を勉強に費やせる事が何よりも喜びでした。
オフの時は、バスツアーや鉄道を使って近隣の国に旅行していました。あの頃が人生で一番旅行をした時期ですね(笑)。
Q. 大学を卒業してすぐ帰国されたんですか?
実は、大学卒業前に現地でドイツの社会的な問題や高齢化問題に興味を持っている方と出会いました。その方は介護士を目指していて、私も昔から介護などに興味を持っていた事もあり、ドイツに残って老人介護の仕事をしようと決めました。介護施設での実習や勉強をするなかで、下の世話や食事のお世話、病院の付添などをして、感謝の言葉を頂いたり、人から必要とされる仕事にとても遣り甲斐を感じていました。しかし、ドイツ人は老人でもとても大柄の方が多いので、気持ちとは裏腹に自分の体力がついていきませんでした。研修を進めるうちに体がボロボロになってしまいゲッソリ痩せてしまったんです。体調が崩れると、自然と弱気になってしまい、特に計画は立てずに、ただ気持ちと体のリセットのつもりで日本に帰国したんです。
Q. 通訳の道を歩み始めたのはいつごろからですか?
帰国後、せっかく覚えたドイツ語力をキープしなければと思い、留学前に通っていたドイツ語学校に再度通うことにしました。その時、以前は無かったドイツ語通訳者育成コースが作られていて、先生の勧めでクラスに入るための通訳テストを受けてみたんです。
正直、自分はドイツでどっぷり生活・勉強をして帰ってきたばかりだから、簡単だろうとフテブテシイ気持ちでいました。ところが実際は、0点に近いくらいの結果で、先生からあんたはドイツで何をしてきたの!と駄目だしされました。金槌でドスン!と叩かれて土の下くらいまで埋まってしまって出られないくらいの気分でしたね(笑)。それが一切褒められることのない苦難の始まりでした。通訳育成プログラムを受け始めたものの、自分に通訳が合っているわけがない!と決めつけていました。それよりも、自分が好きなことを仕事にしたい。本当にやりたい仕事が他にあるはずだとずっと思っていましたね。
Q. 辛いなかどうして諦めずに頑張れたんですか?
通訳学校のクラスメイトがものすごく刺激を与えてくれました。とてもスキルの高い立派な方が沢山いたので、私ももっと頑張らなきゃとモチベーションがあがりました。また、クラスメイトや先生など、横の繋がりで仕事を頂いたり、色々とご協力頂きました。
もう一つの理由に、初めて依頼された仕事を終えた時、クライアントから、有難う。あなたがいてくれてよかった。と、とても温かいお言葉を頂いたんです。その時に、やっぱりこれは物凄く満足感のある仕事だ!やっぱり通訳者として頑張って行こう!と思いました。
Q. 通訳の仕事をしていて、遣り甲斐を感じるのはどんな時ですか?
毎回仕事の前は、何で引き受けたんだろう、やっぱり難しいかな〜、大丈夫かな〜・・なんてナヨナヨしていたりするんですよ。でも仕事を終えた後、クライアントから有難うの一言をもらうと、一気にモチベーションが上がりますね(笑)。これは介護にも共通していますが、直接、感謝の言葉を頂くと、人の役に立っているという実感と喜びが込み上げてくるんです。ドイツ人は本当にはっきりしていて、本心しか言わないので、通訳が駄目な時はすぐに注意されます。そのぶん、有難うといわれた時は、100%の気持ちで言って下さっているのがわかるので本当に嬉しさは格別ですね。
Q. 河野さんの趣味や息抜き方法を教えて下さい。
趣味はフットサル・水泳・加圧トレーニング・ヨガ・ダイビング・岩盤浴・デトックスなどをして、リフレッシュしてます。そのなかでも一番好きなのがフットサルですね。
練習して上達するとどんどん楽しくなって、男女Mixのチームを組んで大会に参加したりしてます。私は趣味も実は仕事の質の向上に繋がると思っています。通訳学校時代は、体を動かさずに勉強で頭ばっかり使っていたので、脳内疲労から肩こりや頭痛になり、とても心身のバランスが悪かったんです。今はとにかく体を動かして体力をつけるようにしています。運動すると、集中力や持続性も上がります。肩こりも頭痛もなくなるので、仕事の日には常に万全の状態で臨めるようになりました。
デトックス・岩盤浴・断食などにも凝っていて、体の中からきれいになる美容と健康に凝っています。特に断食後は体も頭もクリアになって、物凄く集中力も上がり、いい仕事ができるんです。
Q. 通訳のお仕事で、失敗談などあったら教えてください。
運よく、大きな失敗というのはないんです。ただ、今日は完璧に出来た!と思う仕事も今まで一回もありません。周りの方にいくら良い評価を頂いても、自分では納得できない部分が必ずあり、次はもっと頑張らなくちゃと思いますね。
Q. 河野さんの夢・目標はなんですか?
ここ1・2年ですが、やっと、自分には通訳しかないと思えるようになりました。一生、謙虚でありつづけ、体調管理に気を付けて質の高い仕事を続ければ、仕事をずっと頂くことが出来ると思っています。また、通訳という仕事は黒子ですから、最終的には存在感を消して空気のごとく自然な通訳が出来るような”黒子”を極めたいですね。
あと通訳とは別ですが、幼い頃から動物が好きで、獣医師や盲導犬の訓練士など、動物に関わる仕事がしたいと思っていました。パピーウォーカーと言って、盲導犬の訓練に入る前の子犬や、盲導犬を引退した後の犬のお世話をするボランティアがあるんです。それを、後々、またはおばあちゃんになって通訳を引退した時にしたいと思っています。
介護も犬のお世話も時間を取られますが、自分が必要とされているという実感がわいて、生活に張りもでるので充足感を得られます。
Q. 通訳者を目指されている方へのアドバイスをお願いします。
1つは、通訳学校に通うことですね。なかには通訳学校の無い他言語もあるかと思いますが、もしあれば絶対にお勧めします。クラスメイトの前で実戦して厳しく注意されたり、自分では気づかない日本語の癖を指摘してくれたり、優秀なクラスメイトを見て自分が力不足だとわかりモチベーションが上がったりしますから。学校だからこそ得られる力・経験が沢山あると思います。私自身、通訳学校に行ってなかったら、現場には出られていなかったと思います。
2つ目に、常に好奇心旺盛に過ごすこと。好奇心のアンテナの感度をよくしておくことです。電車の中づり広告、ポスターなど、どんな情報でもいつ仕事に繋がるか分かりませんから。
3つ目に、通訳という仕事は、語学力だけでなく謙虚さやビジネスマナーなどとのバランスが重要だと思います。仕事に慣れてくる時期にこそ、初心に帰り、謙虚さを忘れないことが大切です。通訳の基本を忘れては、本当に良い仕事は出来ないと思います。また、基本的なビジネスマナーをしっかりと身につけること、常に周りに気を配ることも大切です。通訳はサービス業です。人間同士ですから、いくらパフォーマンスが良くても、自分の振舞いや姿勢、態度、発言などで相手の機嫌を損ね、次の依頼を頂けなくなっては勿体ないですからね。ビジネスマナーの第一人者と言われている佐藤綾子さんの本はとてもお勧めですよ。また、坂東眞理子さんの「女性の品格」は、基本的だけど実践できていない事が多いと気づかされる本でした。
あとは、体力を付けて体調管理を怠らないこと。長時間に及ぶ通訳の場合、初めから最後までクオリティーを一定に保つためには体力が必要ですから。
最後に、目標に向かって努力するのはもちろんいい事ですが、どんな仕事でも自分には向いていないかもと最初から決めつけずに、チャンスがあったら何でもやってみる事です。意外と自分の適性に合っているかもしれませんし、いずれ自分の天職になるかもしれません。どんなことでも始めるのに遅すぎる事はないと思います。
【河野さんの七つ道具】
ルイボス茶:(ノンカフェイン、カロリーゼロ、ミネラルバランス抜群、体内の水分濃度が一番バランスよく保てる)
チョコレート(ドイツのチョコ:食べ過ぎないようにMiniの物)
ペン
ノート:2種(①通訳用、早くめくれるように、大きさもベスト②何でもメモ帳)
アイポッド(PodCastで最新ニュースや様々な分野のラジオを聞く)
電子辞書
愛犬:誉(ほまれ)ドイツ生まれ、日本育ち。大学留学の時から一緒で、日本に共に帰国。ドイツでは映画館でもバスでもどこでも連れていけたので、ずっと一緒だったとの事。
【編集後記】
アイポッドで聞く物、飲むお茶、ご趣味など、河野さんの生活全てが仕事に繋がっていて、プロ意識の高さに驚かされました。スポーツ万能でとってもカッコイイ一面もあり、本当に素敵な方でした。河野さんおススメのデトックス法「断食」、想像以上に難しそうですが、週末に大好きな旅番組・グルメ番組を封印して1日断食からチャレンジしてみようかな〜と思いました。※河野さんによると、まずは正しく自分にあった断食方法を見つけることからのようです。無理禁物!
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