第6回 ビジネスニュースを読みながら将来の仕事を予想?!
みなさん、こんにちは。日本は猛暑が続いているようですが、いかがお過ごしでしょうか? 私は2週間ほど日本の夏を楽しんで、イギリスに戻ってきたところです。こちらはエアコンどころか扇風機すらもなしで過ごせるほど涼しいので、暑さが苦手な方はどうぞ避暑に来てください!
ところで皆さんは、新聞を読んだりニュースを視聴したりしているときに自分の将来の仕事を予測することはありますか? 私は、日系企業が関連する大きなニュースがあると、「あ、この関連の通訳・翻訳を依頼されるかな?」と意識を高めます。そんな私のレーダーに先月引っかかったニュースはこちらです。
7月24日発行、日本経済新聞の見出し
「日経、英FTを買収 ピアソンから1600億円で」
企業買収や合併は国内でも国外でもよく行われますが、それが日系企業と外国企業の場合、当然ながら多くの翻訳・通訳業務が発生します。ニュースになるかなり前から、様々な交渉が行われているので通訳が必要だった可能性は高いですし、買い手は対象企業について綿密な調査をしてから決定を下しますから、その資料の翻訳も必要となります。この調査を「デューデリジェンス」と言います。調査結果に満足すれば、買収契約を結ぶことになり、ここでまた契約書の翻訳が必要です。晴れて買収契約が締結された場合、企業運営の統合にあたり ますます翻訳・通訳の必要性が高まります。それをインハウスで行うか、フリーランスに委託するかはそれぞれの状況によるでしょうが、たいていはインハウスとフリーランスの両方で需要が高まると思います。
というわけで、今回は企業買収に関連した用語を取り上げます。
まずは、さきほどの見出し「日経、英FTを買収 ピアソンから1600億円で」を英訳するといかがでしょうか?
「買収」というと、少しビジネス英語を勉強している方ならまずacquisitionが浮かんだのではないでしょうか? もちろん、acquisitionはよく使われますが、これは名詞なので「~を買収」と表現するときに困るかもしれません。
そこで今度は買収されたFT紙の見出しを見てみましょう。ちなみにFTというのはイギリスの有力経済紙フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)のことです。紙がほかの新聞と違い薄いオレンジ系ピンク色なので、遠くからでも一目でFT紙と分かり、このピンクの新聞を持っているだけで一部からインテリと思われるかもしれません。そのFT紙(7月23日付)の見出しは、「Nikkei to buy FT Group for £844m from Pearson」でした。つまり一流経済紙の見出しで「買収」はなんとto buyという中学1年生で習う語が使われているのです! こんな風に日本語では専門用語でも英語では簡単な言葉が使われることが多いので、辞書で「買収」を調べるだけではなく、同じような記事を別の言語の媒体で用語を比べると、よりネイティブらしい表現が使えるようになるでしょう。また買収価格が日経新聞では円建て、FT紙ではポンド建てになっていることにも注目です。通訳では外貨換算する余裕がなくとも、翻訳では換算するのがふつうでしょう。これは、通貨に限らず重さ(グラム・キログラムvsオンス・ポンド)や距離(メートル・キロメートルvsフィート・マイル)などの単位でも同じです。
また「買収する」は単なるbuy以外にもbuy outやacquire(acquisitionの動詞形)なども使われます。M&Aという言葉は日本語でもよく使われるので皆さんご存知でしょうが、企業の合併・買収と言ってもそのレベルはさまざまです。狭義では、二つ以上の企業が一つになることをMergers(合併)、ある企業が他の企業を買うことをAcquisitions(買収)といいますが、広義では一部株式譲渡(transfer of shares)、事業譲渡(transfer of businesses)、資本提携(capital alliance)なども含まれます。
ちなみに今回FT紙を手放したピアソン社は、私が翻訳・編纂にかかわった『ロングマン英和辞典』の出版社で、今回の取引を決めた理由は教育事業に専念するためだそうです。個人的には、自分が働いていた企業から有力部門が手放された寂しさより、自分の国の新聞社が世界的に有名なメディアを所有することになった喜びのほうがはるかに大きく、今後の発展への期待に胸を膨らませています。
またピアソン社はThe Economistというイギリスの週刊誌に50%出資していますが、こちらは今回の買収対象に含まれていません。
この買収に伴い、経済分野での翻訳・通訳の需要が高まることが予想されます。この分野に興味のある方は、ぜひ日経新聞やFT紙などを読んで知識を高めるとよいでしょう。文書だけでなく、ポッドキャストや動画も利用すると通訳に役立つことでしょう。
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