第96回 「ピンピンコロリ」の英訳は?
皆さん、こんにちは。通訳の現場に出ている人なら誰でも瞬間的にパッとうまい訳語が出なくて悔しい思いをしたことがあるのではないでしょうか。私は、毎回です(笑)! いつも何らかの反省点はありますが、すごく困ったときのことは一生忘れません。私にとって「一生忘れないフレーズ」の一つが「ピンピンコロリ」です。
もうずいぶん前のことですが、某自治体の施策についての話し合いで、逐次通訳でした。「ピンピンコロリ」を文脈で訳すだけだったらなんとか意味を伝えることはできたのではないかと思いますが、そのとき、まずは「うちの施策はPPKです」という1文を逐次通訳しました。「PPKって何の略かな」と思いながらOur policy is PPKなどと英訳。すると、次にお客様が「PPKとは、つまりピンピンコロリです」と得意満面でおっしゃったときには「えー?! 日本語の頭文字だったの?!」ととても焦った覚えがあります。恐らく焦りをなるべく隠して、
PPK stands for a Japanese expression, Pin Pin Korori…
と始めてから拙い説明を加えたような気がします。
その後で知りましたが、日本では「PPK」という略語がときどき使われているんですね。
その忘れもしない「ピンピンコロリ」にあたる表現を最近英The Economist誌で見かけたので紹介します。
まずはA better way to care for the dyingという日本の介護の問題に関する記事です。ここではなんと「pin pin korori」という日本語がローマ字で引用されているではありませんか! そして、次のような説明が続きます。
It is a wish for two things. The first is a long, spry life. The second is a quick and painless death.
なるほど。うまい説明ですね。
そして、最新号のA magnificent U-turn raises questions about Tory competenceは、英保守党の掲げた選挙公約に関する記事ですが、そこでA sprightly person who died suddenly might be able to pass on millionsを見かけたときに「あ、ピンピンコロリのことだ! 次のハイキャリアのネタにしよう!」と思いました(笑)。
同記事について簡単に説明すると、6月8日の総選挙に向けて、保守党のマニフェストが発表されましたが、そこで掲げられた高齢者介護の受給者負担についての方針が波紋を呼びました。介護の支払いは死亡時の遺産が使われるという政策で、認知症(dementia)などで長期介護が必要だった場合、住宅の価値10万ポンド(約1450万円)を除いたすべてが介護費用の支払いに使われる(→遺族に残せる資産は最高10万ポンドの)可能性があるため、「認知症税 (dementia tax)」だと批判されました。
そこで先ほどの引用文に戻りますが、逆に「ピンピンコロリの場合は、資産を何百万ポンドでも遺族に残すことができる」というわけです。
「ピンピン」がここではspryやsprightlyが使われていることが学びではないでしょうか。
「私は老後はピンピンコロリを目指している」だと上記の表現を生かして、
After living a long, spry life, I’d like to die suddenly and painlessly.
などと言えるかと思います。
というわけで「ピンピンコロリ」が通訳で出てきたら上記の表現がお役に立てば幸いです。
そしてピンピンコロリを目指して、今日も心身を鍛えたいと思います。
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