INTERPRETATION

第79回 テクノロジーの進化と共に継続的に学ぶこと

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。先週も驚くニュースが米国から次々と飛び込み、英米首脳会談も開かれましたが、今回は少し話題を変えて、英エコノミスト誌2017年1月14日号で特集されたLifelong learningについて取り上げます。

こちらの記事はWhen education fails to keep pace with technology, the result is inequality(教育がテクノロジーの進歩についていけないと、格差が広がる)という一文で始まっています。第二段落では次のように書かれています

Today robotics and artificial intelligence call for another education revolution. This time, however, working lives are so lengthy and so fast-changing that simply cramming more schooling in at the start is not enough. People must also be able to acquire new skills throughout their careers.

ロボット工学や人工知能(AI)がどんどん進化しているために、社会に出る前の学校教育でいくら詰め込んでも足りない時代になった、生涯を通して新たなスキルを継続して身に着けていく必要があるとのことです。

本記事では以下、新しい時代に即応した教育をすべての市民に提供することの重要性などが述べられています。

キーワードはMOOCs。「ムーク」または「ムークス」と発音しますが、Massive Open Online Coursesの略。インターネットを用いた大規模な公開オンライン講座で基本無料。手軽に高いレベルの授業が受けられるので教育革命の始まりとも言われています。

ロンドンメトロポリタン大学でもWebcamを利用して他国の大学と連携した授業も行っていますし、私個人も(小規模で有料ですが)オンライン講座を開講しています。もちろん教室で対面の授業をするほうが効果的だとは思いますが、決められた時間に特定の場所に行く費用と時間を考慮するとオンライン講座のほうが効率的だと判断する受講生が増えています。

技術の進歩はあらゆるセクターに影響を及ぼしており、言うまでもなく私たちは自動翻訳・通訳の進歩に敏感であるべきです。一昔前に比べるとかなり翻訳の正確度が増しており、将来私たちの仕事はどうなるのか心配する人もいるでしょう。でも、技術の進歩というのは脅威ばかりではありません。技術の進化を理解し、どんどん取り入れることによって、自分のパフォーマンスをさらに向上させることができます。

先週、ロンドンメトロポリタン大学では「通訳者に役立つテクノロジー(Technology for interpreters: how do you optimise interpreting with a smart pen and Apps on your devise?)」という単発セミナーが開催されました。ここで紹介されたのは、Livescribeというスマートペンです。逐次通訳で話者の話を聞きながら、この「魔法のペン」で「魔法のメモ帳」にメモを取ると、スピーチが録音され、メモをタップすればその部分が再生されます。メモを取った個所を切れ目ごとに再生することもできます。イヤホンでスピーチを再生しながら同通、つまり逐次通訳と同時通訳を合わせたような新しい形の通訳が可能となりました。ヨーロッパでは、逐次通訳より同時通訳のほうが得意な人が多く、このようなテクノロジーを使うとメモや記憶に頼らなくても逐次通訳ができるという利点があります。スピーチを録音するので、クライアントの許可を取る必要がありますが、担当講師によると「通訳パフォーマンス向上のため」「業務が終わったら即録音ファイルを目の前で削除する」と説明するとこれまでのところ拒否されたことはないとのことです。

また、通訳の(時に膨大な)資料ですが、日本では今でもエージェントが印刷して通訳者に送ってくれるそうですが、ヨーロッパではペーパーレス化がかなり進んでいます。一昔前までは、「データだと書き込みができない」という問題がありましたが、今ではタブレットやスマホを使って手書き入力したり、色・印を付けたりが手軽にできるようになりました。データだと用語検索も一瞬でできるので、紙の資料を持ち歩くより便利だと思います。

本コラム第50回で「アーリーアダプター」を自称した私ですが、このセミナーを担当したMaha El-Metwally(同大学アラビア語通訳講師)が紹介してくれた数々のアプリの半分も使っておらず、まだまだ修行が足りないと感じました。時間の効率化・パフォーマンス向上のために、今後も技術を前向きに取り入れていきたいと気持ちを新たにしたところです。

2017年1月30日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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