第138回 Brexit Update: アイルランドとの国境問題
皆さん、こんにちは。早くも6月に入りましたね。6月と言えば、日本では「梅雨」のイメージですが、ここイギリスでは受験シーズンです。大学や高校の学年末試験(final exam)は5月~6月。早いところはもう終了しましたが、これからが本番という学生も多くいます。
先週は、米朝首脳会談や貿易摩擦、イタリアの政権誕生など、様々な政治ニュースが流れました。そんな中、久しぶりにBrexit関連について取り上げます。グローバルニュースでは取り残されている印象がありますが、難題は続いています。
一番の課題はアイルランド共和国との国境問題です。これは本コラム第78回と第88回でも取り上げましたが、歴史的な背景もあり大変複雑です。
まずは基本事項のおさらいをします。
イギリスの本州にあたるグレートブリテン島(Great Britain)の西にあるアイルランド島は、南北に分かれています。北部「北アイルランド(Northern Ireland)」はイギリス(the UK)に属しますが、南側「アイルランド共和国(Republic of Ireland)」は独立国家です。けれども19世紀から100年以上もイギリスの支配下に置かれていたし、北部はイギリスに属していて、共通旅行区域(CTA)制度があるためパスポートの検査なく両国を往来できるので、現実には独立国家のようで、まだイギリス属国のようなイメージです(こんなことを言うと、アイルランド人に怒られそうですが…)。実際、ダブリン(アイルランド共和国の首都)に何度か行ったことがありますが、イギリス在住者にとってあまり異国情緒はありませんでした(UKに属するスコットランドのほうが異国情緒があります…)。
難題となっている理由は、以下の通りです。
1.イギリスは単一市場 (the Single Market)や関税同盟(the customs union)からの撤退を希望している。
2.でも半分属国(切っても切れない関係)のアイルランドとは、検問なしに自由なヒトとモノの動きを続けたい(No hard border/厳格な国境回避)。
3.ところが単一市場では「ヒト・モノ・カネの自由な動き」がワンセットになっていて、おいしいとこどりは許さない(No cherry-picking)というのがEU側の主張。(イギリス側の本心は「アイルランド人は来てもいいけど、元東ヨーロッパの人は……。」)
アイルランドがEU加盟国である限り、例外は認められない。
4.それに対して、イギリス側はなんとか解決案を認めてもらおうと努力を続けている(が、今のところ解決の見込みは薄い)。
そこで、今回はその解決案について紹介します。
イギリス側は次の2つを提案しています。
1.Customs partnership(関税パートナーシップ):新たな関税の枠組みを設け、イギリスに入るモノに関税(tariffs)が課される。モノがイギリスを通過して外国に輸出されたりイギリスの関税の方が低ければ、輸入業者は差額を払い戻し請求ができる。
2.Maximum Facilitation(最大限の円滑化、max facと略される):最新のテクノロジーと認証企業制度(trusted-trader schemes)を用いて、国境検問をできるだけ少なくする。
メイ首相は前者を、Brexiteersと呼ばれる政治家は後者を推進しています。
いずれにしてもシステムを整備するための時間とコストが問題となっています。またEUはどちらの案にも難色を示しており、Goodbyreland(グッドバイルランド:アイルランドも離脱すれば?!)という新語も生まれているほどです。けれども、当のアイルランドはEUが大好き。92%が親EU派という世論調査の結果があります(関連記事)。ユーロ圏にも属しているのでGoodbyrelandには通貨の問題も発生します。現実的な解決策とは程遠いと言えるでしょう。
今月末にEU首脳会談(EU Summit、正式にはthe European Council 欧州理事会)にてこの問題が話し合われる予定です。それまでには英政府側の方針を一つにまとめようと現在討議が行われているようです。ただ、最近は再びItalexit(イタレグジット:イタリアのEU離脱)という言葉も飛び交うようになり、EUの難題は後を絶ちません。
以上、Brexit Updateでした。アイルランドの記述(特に「属国うんぬん」)はあくまで個人的見解ですので、間違ってもアイルランド人に向かって「今でも半分属国なんだってね」なんて言わないでください! (けんかを売りたくなければ)
隣人も含め、たくさんのアイルランド人の知り合いがいます。陽気でおしゃべり好きな人が多いです。でも、上記の内容を私が持ち出すということはないです。
2018年6月4日
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