INTERPRETATION

第126回 Brexchosisとは?

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

英国でEU離脱に関する国民投票が行われてから1年半以上たちましたが、今でも「結局は離脱しないんでしょう」とか「また国民投票があるんでしょう」などと言う人がいて驚きます。実際はBrexitに向けて徐々に話が進んでいます。英政権の方針が定まらないとの批判は続いていますが、今後数週間で首相や大臣らが「英国の方針」について次々と合計6回の演説をすることになっています。

その皮切りとなったのが、2月14日(バレンタインデー)に行われたボリス・ジョンソン外相の演説です。ジョンソン氏と言えば、EU離脱派の主要人物。雄弁で当然ながら強硬派。単一市場(the Single Market)からも関税同盟(the Customs Union)からも離脱し、完全な独立国としてグローバルに自由貿易を進めるべきだと主張しています(穏健離脱、強硬離脱については第65回参照)。先週の演説では “Let’s unite!” と離脱に向けての団結を訴えました。

そこで今回は、そのスピーチで使われた新語Brexchosisを取り上げます。

Brexitとpsychosis ([saikóusis]と発音、pは黙字で「コゥ」にアクセント)を合わせた造語で[brekskóusis] と発音。最近のイギリス社会について、ジョンソン外相は

…in the current bout of Brexchosis we are missing the truth…

「イギリス人はBrexchosisという病にかかっていて真実が見えていない」と嘆いています。

Brexchosisは、英エコノミスト誌によるとthe Brexit-induced psychosis afflicting the country。

・-induced: ~によって引き起こされた、誘発された

・psychosis: 精神病

・afflict: ~を苦しめる、悩ます

つまり、Brexchosisとは「英国を苦しめている、Brexitが誘発した精神的な病」。EU離脱が決まってから、必要以上にネガティブに考えている人があまりにも多いことを指しています。

これまで英国のEU離脱問題に関して多くの新語が生まれました(第52回参照)。その中では、Brexit以外にもRemainers(残留派)、Leavers/Brexiteers(離脱派)などは英社会ですっかり定着しています。

Brexchosisが今後イギリスメディアで定着するかどうかはともかく、この症状が存在することは否定できません。今後、英政府の方針が明らかになり、EUとの交渉が進む中でBrexchosis患者が完治していくことを願っています。

2018年2月19日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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