第109回 Brexit 続編
皆さん、こんにちは。今回は東京からお届けしています。イギリスから来ると、こちらはまだ「夏」という感じですね!
さて、先週Brexit関連で動きがあったのでお伝えします。
英国のEU離脱に関するEUとの交渉は6月に始まり、月に1度の頻度で既に3回協議がされましたが、お互いの要求に隔たりが大きくこう着状態にあります。その打開のためか、9月22日イタリアのフィレンツェ(英語ではFlorence、何百年にもわたり英国と文化的・経済的な結びつきが強い場所ということで選ばれた)で英メイ首相がEU離脱の方針について演説を行いました。
重要な点は以下の通りです。
1.移行期間
英語ではふつうtransition periodやtransitional periodと言われますが、メイ首相はimplementation periodという表現を使っています。2019年3月に英国はEUを離脱することになりますが、これまで通り貿易や企業活動を続けられるよう、2年くらいは単一市場(the Single Market)に残りたいとしました。1月の演説でメイ首相は単一市場からの撤退を明言しましたが(第78回参照)、1年半後に激変すれば混乱を招く危険性が高く、緩和措置としてこのような準備期間を設けることを提案しています。
2.EU加盟国からの移民(immigrants from EU member states)
昨年10月のメイ首相の演説(第65回参照)では、”We are not leaving the EU only to give up control of immigration again(せっかくEUを離脱するんだから再び移民の管理を放棄するわけにはいかない)”と述べ、EUからの自由な人の移動(free movement of people)を制限することを明確に打ち出していました。ただし、移行期間中EU市民は引き続き英国に滞在し就労することもできるが登録制度を導入する(people will continue to be able to come and live and work in the UK; but there will be a registration system)とのことです。
3.EU予算分担金
divorce bill(手切れ金)とも言われる離脱清算金についは、The UK will honour commitments we have made during the period of our membership.(英国はEU加盟国として約束した負担責任を果たす)と発言。これは「清算金を支払う準備がある」ということで、これまでの強硬姿勢からEUに少し歩み寄ったことを示す発言です。
他にもEUとの自由貿易協定(FTA)や安全保障の問題などに言及されましたが、個人的に最も印象深かったのはEU離脱の理由に関する次の言葉です。
…throughout its membership, the United Kingdom has never totally felt at home being in the European Union. And perhaps because of our history and geography, the European Union never felt to us like an integral part of our national story in the way it does to so many elsewhere in Europe.
「なぜイギリスはEU離脱を選んだのか」の答えは、確かに第38回で取り上げたように、移民やEUへの負担金、規制の多さなどが具体的な理由として取り上げられますが、真髄はこの「歴史的・地理上の理由から、イギリスはEUに加盟したものの他のEU諸国と同じような一体感を感じることなく、ずっと居心地が悪かった」という点にあると思います。だからユーロ圏にも入らずシェンゲン協定にも合意せず、そしてEUからの移民が増えることやEUへの負担金が多いこと、超国家レベルの規制が耐えがたいのだと思います。
このメイ首相の演説を受け、9月25日から再開するEUとの交渉が前進することを期待しています。
2017年9月25日
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