第99回 Figures of speech その2 You may say I’m a dreamer…
皆さん、こんにちは。先週のイギリスは記録的な暑さで南西部の男子生徒が「半ズボン禁止」の校則に抗議してスカートで登校するというニュースが話題を呼びました(Exeter Academy skirt boys won right to wear shorts)。抗議のかいがあって、来年からは半ズボンが認められるそうです。よかったですね。ところで、「半ズボン」を英語で言うとshorts。日本語では「ショートパンツ」ともよく言われますが、少なくともイギリスでは聞かない表現です。
さて前回からFigures of speech(文字通り以外の意味合いを持つ表現)を取り上げていますが、先週のニュースで心が揺らされたFigures of speechがあったので紹介します。
まずは、イギリスの現状を振り返りましょう。第88回でお伝えした通り、3月末に英EU離脱の正式なプロセスが開始されました。その後英メイ首相は突然議会の解散総選挙を発表し世界をあっと言わせました(第91回参照)。その時点では、ジェレミー・コービン率いる最大野党の労働党の支持率が最低で、メイ首相は今ならきっと圧勝(landslide victory)できると信じて議会を解散させたのです。ところが、選挙活動中に発表した保守党のマニフェストが国民の反感を買う一方(第96回参照)、労働党の掲げる半緊縮政策が若者を中心とした国民の支持を得て、選挙は大失敗に終わりました。圧勝どころか過半数の議席も取れず、hung parliament(宙ぶらりんの議会)となっています。北アイルランドの保守政党DUP(民主統一党)と連立政権(coalition government)を樹立させるつもりで交渉を重ねていますが、選挙から2週間以上たった今もまだ話がまとまっていません。選挙で圧勝して、強気姿勢でEU離脱の交渉に臨むというシナリオが見事に崩れてしまいました。
加えて、イギリスではテロ事件が相次いでいます。3月以降、イスラム過激派によるテロが3件も続いた後、今度は白人によるイスラム教徒を狙ったリベンジ・テロも起きました。
さらに公営住宅として使われている高層ビル (tower block/ high-rise) で起きた大火災。それに続く地方自治体や中央政府の対応の悪さへの住民の怒りなど、「これでもか?!」というほど悪いニュースが相次いでいるのがメイ首相率いるイギリスの現状です。
前置きが長くなってすみません。
こんな苦境に置かれているメイ首相が、6月22日にトゥスク欧州理事会議長(EU大統領)と会談をすることになっていました。その数時間前にトゥスク議長がBrexitに関して記者会見でこんな発言をされたのです。
Some of my British friends have even asked me whether Brexit could be reversed, and whether I could imagine an outcome where the UK stays part of the EU.
I told them that in fact the European Union was built on dreams that seemed impossible to achieve.
So, who knows? You may say I’m a dreamer, but I am not the only one.
最後のフレーズ、聞き覚えがありませんか? ジョン・レノンのイマジンの一節です。イマジンは、40年以上も前に世界中で大ヒットした曲で、国家や宗教によって起きる対立や憎悪を無意味なものとし、人類の平和を願った歌。この時代に、この状況で、その歌からの引用を利用して、「(リスボン条約第50条は発動してしまった、本来なら取返しがつかないところだけれども)イギリスがEUに残ることにするなら両手を広げて迎えてあげるよ」とも受け取れるこの表現に私の心は揺さぶられました。私がメイ首相だったら、きっと「ごめんなさ~い!」と言ってトゥスク議長の胸に飛び込んだことでしょう。
しかしながら、Maybot(MayとRobotをかけた造語。「ロボットのように決まり文句を繰り返すメイ」の意)という言葉まで生んだメイ首相は予定通りEU離脱の交渉を進めています。
メイ首相の心はぶれなかったけれども、ジョン・レノンの歌詞を引用したトゥスク議長の熱いメッセージはあまりにも印象深く、先週「時事問題をしばらくやめる」と言ったばかりですが、前言撤回してこのような内容をお届けしました。これも絶妙な引用というFigures of speechのパワーです。
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