第77回 先週注目のスピーチ
皆さん、こんにちは。1月も中旬に入りましたが、いかがお過ごしでしょうか。
前回は、今年注目のニュースを取り上げましたが、そのNo. 1に関連し、先週は印象的なスピーチが3つありました。どれも世界中で報道されているので既にご存知の方も多いでしょうが、以下紹介します。
1.オバマ米大統領の退任演説(President Obama’s Farewell Address)
退任間近のオバマ大統領が1月10日、シカゴで退任演説を行いました。米大統領が退任演説をホワイトハウス以外のところで行うのはとても珍しいそうです。自身の政治の原点であるシカゴの市民の前での演説では、Four more years!と会場から連呼されるなど、退任が惜しまれているのが伝わってきましたね。医療保険制度改革(オバマケア)の実績を強調したり、米国がいかに移民を受け入れて繁栄してきたかや平和的な外交政策によって問題解決をしたことについて語ったりなど、次期大統領が訴えている政策を牽制する意図が感じられました。冒頭は速攻のユーモアで始まり、途中妻に感謝の意を述べながら目頭を熱くした後、最後に国民を勇気づけるなど、さすがオバマ大統領、やはり名演説! この8年間、オバマ氏のスピーチは通訳練習や英語学習にもずいぶん使われましたが、今回の退任演説も一つの時代の節目を表すスピーチとして51分ありますが、一度通して聞かれるとよいと思います。
2.米次期大統領トランプ氏の記者会見(President-elect Press Conference)
一方のトランプ氏は1月11日に大統領当選後初の記者会見を開きました。もともとは、実業家としての立場が大統領職に抵触するかどうかについての説明の場として予定されていましたが、前日にロシアでのスキャンダルに関する疑惑の報道がなされたため、この点が特に注目を浴びました。
就任後、ロシアとどんな関係を結んでいくのか、また自国の情報機関と就任前にこれほどまで対立した後、どのように関係修復するのか(しないのか)大変気になります。
「壁」の件は、記者会見によると「We’re going to build a wall.(メキシコとの国境の壁は作る)Mexico in some form will reimburse us for the cost of the wall(その建設費用は何らかの形で後でメキシコから回収する)」とのことで、選挙中の公約を守るつもりのようです。
元弁護士のオバマ大統領は雄弁ながらも時々難しい表現を使うので通訳・翻訳も苦労をしますが、後継者のトランプ氏は、平易な短文で、何度も同じことを繰り返して言うので訳しやすく感じるかもしれません。ただ通訳者泣かせのくだけた(俗語)表現が多く、声を荒げるような場面をどう訳すかなど、別のchallengeがあります。これからトランプ氏のスピーチを聞いたり訳したりする機会も増えるでしょうから、内容に共感するしないにかかわらず、教材として使うとよいでしょう。
以下、この記者会見におけるトランプ氏独特の表現をいくつか挙げます。
・(Buzzfeedについて)a failing pile of garbage(できそこないのゴミの山)
・It’s a disgrace…(みっともない/恥さらし/面汚し )、very very、horribleの繰り返し
・Obamacare is a complete and total disaster(オバマケアは完全な大失敗だ)
・(高額の製薬を販売している製薬会社について)getting away with murder (好き放題やっている)。– 注:ここではmurderは「殺人」ではなく、「それくらいひどいこと→好き勝手」の意。製薬会社だからと言って、「殺しに使う薬を作っていたのに罰せられていない」という意味ではないので要注意。
・I will be the greatest jobs producer that God ever created(私は神が創造した最高の雇用創出者になる。)– 注:出た!大げさな自画自賛!!
・(米情報機関が流したとされるロシア関連の報道について)It’s all fake news. It’s phony stuff.(中略)It was a group of opponents that got together–sick people–and they put that crap together.(あれは全て偽ニュースだ。いんちきだ。反対派の病んでる連中が一緒になってあんなひどい話をでっちあげたんだ)– 注:大統領になるという人が公の場でcrapなどの下品な言葉を使うのも通常考えられないことです。あなたなら、どう訳しますか?
・Give me a break!(勘弁してくれよ)
・(現民主党政権について)we’re run by people that don’t know what they’re doing.(自分が何をやっているのか分かっていない人たちが現在この国の政権を握っている)
・(トランプ氏の事業を引き継ぐ息子たちについて)if they do a bad job, I’ll say, “You’re fired”. (「業績が悪ければ、『おまえらはクビだ』と言うだろう」– 注:大人気だったテレビ番組The Apprenticeでの名ゼリフを引用)
などなど。大統領就任後も「え、そんなこと言うの?」という発言を次から次へとされるのか、20日以降も要注目です!
3.米女優メリル・ストリープ ゴールデングローブ賞のスピーチ(Meryl Streep Speech The Golden Globes 2017)
最後にハリウッド女優のメリル・ストリープがゴールデングローブ賞の授賞式で行ったスピーチを紹介します。かすれ声ながらも、訴えたいことを準備して熱く語られた姿に感激した人も多いことと思います。冒頭でハリウッドがいかに多様性のある人々によって支えられてきたかを訴える言葉も印象的でしたが、障がい者のある記者をまねした権力者(Guess who?)を批判して次のよう述べた言葉は多くの人の心に残ることを望みます。
this instinct to humiliate when it’s modelled by someone in the public platform, by someone powerful, it filters down into everybody’s life because it kind of gives permission for other people to do the same thing.
Disrespect invites disrespect. Violence incites violence. When the powerful use their position to bully others, we all lose.
(人に恥をかかせてやろうというこの本能を、発言力のある権力者が形にしてしまうと、それは全員の生活に浸透してしまいます。なぜなら、こういうことをやってもいいんだと、ほかの人にも許可を与えることになりますから。
他人への侮辱は、さらなる侮辱を呼び、暴力は暴力を扇動します。そして権力者が立場を利用して他人をいたぶると、私たち皆が敗北することになります)
以上、先週印象に残った3つのスピーチを紹介しました。それぞれ、スピーチ原稿の英語(“タイトル&full script”で検索)、日本語訳(翻訳・同通・字幕など)が出ているので、教材として使いやすいのではないかと思います。
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