INTERPRETATION

第69回 Brexit続報 & グローバル化の弊害

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。先週またBrexitで大きな動きがありました。「EU離脱の正式な手続きを開始する(invoke Article 50)前に議会の承認が必要だ」という裁判所の判決が出たことです。メイ政権はこれまで議会の承認なしに来年3月末までにEUに離脱通知を出す(本コラム第65回参照)考えを示していましたが、これに反対する市民らが政府を訴え、政府が敗訴したのです。政府は最高裁判所に上訴すると言っていますが、様々な影響が考えられます。これを今回のテーマにしたい気持ちは山々ですが、米大統領選が迫っているので予定通り「グローバル化の弊害」について取り上げます。(ハイキャリアのメール配信が行われるころにはもう結果が出ているかもしれませんが、開投票日前の11月6日に執筆しています。)

前回はグローバル化(globalisation)がもたらす恩恵・メリットについて9項目を挙げました。今回は、弊害について考え、欧米の先進国で広がっている反グローバル化運動への理解を深めたいと思います。

イギリスの経済学の教科書(高校レベル)には、Costs and Benefits of Globalisationという章があり、Globalisation also has Drawbacks for economiesという見出しの下に4項目挙げられています。

1) Globalisation is causing the price of some goods and services to rise – increasing world incomes lead to increasing demand for goods and services, so when supply is unable to meet this demand, prices rise.

2) Globalisation can lead to economic dependency (i.e. countries’ economies being dependent on each other), so this can lead to instability in economies – for example, if the US economy goes into a recession and reduces its imports, this may cause European economies to go into a recession too.

3) Increasing world trade has led to global imbalances in balance of payment accounts. Some countries, e.g. the USA, have large deficits and others, e.g. China, have large surpluses. These balances are unsustainable, leading to calls for increased protectionism.

4) Specialisation can lead to overreliance on a few industries by an economy, which is risky.

簡単にまとめると、

1)収入増加→需要の増加→供給不足→物価上昇

2)国同士の経済的依存度が上昇→経済が不安定に(米国が景気後退し輸入が減ると欧州経済の景気も悪化)

3)世界貿易の増加→国際収支不均衡(例:米国は多額の貿易赤字 ⇔ 中国は多額の貿易黒字。このような不均衡は長くは続かない→保護主義を求める声が高まる)

4)専門化→限られた産業に依存しすぎる→リスクが高い

さらにMNCs have both Positive and Negative Effects(多国籍企業にはプラスとマイナスの両方の影響がある)という見出しの下にPositive Effectsが3項目、Negative Effectsが7項目挙げられています。Positiveの方は前回取り上げた内容と重複していますので、ここではNegative Effectsの中から特にアメリカのトランプ現象に関連している2項目を引用します。

・ MNCs can force local firms out of business – for example, because local firms might be unable to obtain similar economies of scale, they’ll be less competitive.

・ MNCs can relocate rapidly and cause mass unemployment.

つまり多国籍企業がグローバル化によって海外進出し、スケールメリットを生かしてコスト削減する一方で、国内企業は競争に負けて倒産。またあっという間に工場移転などを行うので大量失業が発生。

米国では2001年以降6万の工場が閉鎖され、それはグローバル化のせいだと言われています。工場閉鎖によって職を失った人たち、移民と職の獲得競争を強いられる人々などがトランプ氏を支持しているとのこと。よく似た問題が欧州でも起きています。

個人的にはその人たちの気持ちも分からないわけではないけれど、壁を作ることで解決するとも思えない。グローバル社会の発展のためには、国家間の壁はできるだけ低くする、またはなくして、協力を高めていくこと、人、モノ・サービス、カネは自由に動いたほうがいい。本人が気づいていないだけで圧倒的多数の人が実はグローバル化の恩恵を受けている。ただし格差が広がらない(縮む)ような政策を政府や経営者が考え、実施してもらいたいと思います。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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