第65回 Brexit 続編
皆さん、こんにちは。10月も中旬に入りましたが、皆さんどのような秋をお過ごしですか? 学びの秋? それとも、やはり食欲の秋でしょうか?!
今回は、再びBrexitを取り上げることにしました(本コラム第36回~第39回、第51回~第54回もご参照ください)。第54回の記事を書いてからBrexitに関しての新しい動きがなかったのですが、先週イギリス与党・保守党の党大会にてメイ首相がやっとBrexitをどう進めていのかという方向性を語ったからです。
では今回の争点に関して、英語の報道を理解し、英語で語るために役立つキーワードを解説します。
1.to trigger/invoke Article 50(直訳:第50条を発動させる、意訳:EU離脱交渉を始める)
イギリス発信の報道(BBC、FT、The Economistなど)では、Article 50が何を指すのかいちいち説明がなく、trigger Article 50とかinvoke Article 50という表現がよく出てきます。Article 50を「第50条」と直訳しても何を指すのか聞き手(読み手)が理解できないと判断すれば訳を工夫したほうがいいでしょう。この文脈でのArticle 50とは、EUの基本条約、リスボン条約の第50条。こちらにEU離脱に関する手続きが規定されています。
EU離脱プロセスの理解で大切なことは、以下の2点です。
・離脱を決めた国(この場合、イギリス)がEUにその旨を通知して、やっと離脱プロセスが始まるということ。(EU側としては、早く通知をするようにイギリスに圧力をかけたり、各加盟国には正式な通知が行われるまでは裏取引などしないよう指示をしたりしています)
・いったん離脱通知をすると、交渉期間は2年間という上限があること(期限延長は不可能ではないけど恐らく無理)。
つまり、6月23日の国民投票で離脱派が過半数を超えたからといって、自動的にEU離脱のプロセスが始まったのでなく、イギリスがEUに対してアクションを取らないことには実際は何も約束されていないので、「国民投票結果には法的拘束力はないし、ふたを開けてみれば残留派の方が多いみたいだから」という理由で「離脱しない」、または「再度国民投票をする」ことも可能性としてはあったのです。
一方、離脱通知をする(invoke Article 50)と、後戻りができないので、この通知時期について国民投票日以降100日間多くの推測がなされてきました。「年内には行わない」ということは明らかになっていましたが、来年となると、フランスの大統領選やドイツの議会選挙が予定されていてEU主要国においてもEU懐疑派が勢力を伸ばすとみられているため、選挙結果を待った方が、イギリスにとって有利になるのではないか、という見方も有力でした。
そういうわけで、投票日から100日めの記念すべき日の党大会にてメイ首相が「2017年3月末までには第50条を発動させる」と発表したことが大きなニュースとなりました。
2.soft Brexit(穏健離脱)
国民投票でEU離脱が決まったものの具体的にイギリスがどのような条件で交渉していくのかが重要なポイントですがが、そこでEU残留派が望んでいるのはsoft Brexitと呼ばれる穏健な方法。Norway style(ノルウェー式)とも言われますが、EUには入っていないけれどもEEA(欧州経済領域)には加盟することを指します。
その場合のメリットは、単一市場(the Single Market)に残って、EUとこれまで通り貿易を続けらるということ。デメリットは、「自由な人の移動(free movement of persons)」も認められているためEUからの移民の数を制限できないことだけでなく、EUの規制のほとんどに従わなくてはならない。そして、(以前よりは減額するけれど)EUに分担金を支払わなければならない。またEU議会に議員を出せないので、EUに対してまったく意見ができなくなる。など、形式上はEUを出ているものの、「こんなことならEUに残っていた方がいいんじゃないの?」と言われたら反論できないような選択肢です。
3.hard Brexit(強硬離脱)
ではsoftの反対、hard Brexitはどうなのかというと、米国のようにEUからは完全に独立するので、EU移民を制限できるし、EU規制にも従わなくていい、分担金も出さなくていい、だけど、EU国への輸出入に関税などの制限がかかるので、経済への影響が計り知れないため経済界はhard Brexitを懸念しています。
Brexiteersは、その中間、「単一市場には残るけれども移民数は制限を設ける」を主張して勝利したものの、それはEU27か国が認めないと言っているので、先が読めない状態が続いています。
今回の演説でメイ首相が、We are not leaving the EU only to give up control of immigration again(意訳:せっかくEUを離脱するんだから再び移民の管理を放棄するわけにはいかない)と移民制限を優先的に取り組む姿勢を打ち出したことにより、hard Brexitの方向に話が進むと考えられる一方、メイ首相は「BrexitをSoftかHardかに分けることはおかしい(a false dichotomy)」と、新しい形でEUとの関係を築く考えを示しました。
その場合、可能性としては、カナダ版があります。EUはカナダと自由貿易協定(Free Trade Agreement/FTA)を結ぶ予定です。イギリスもそのようなFTAを結べば貿易問題を回避できるというわけです。ただし、そのような協定を結ぶには10年も交渉に時間がかかり、2年という期限内に協定締結というわけにはいかないそうです。
以上、Brexitを語りだすとダラダラと長くなってしまいます…。今回のニュースが金融市場に与えた影響(ポンド暴落、株価上昇)についても解説したかったのですが割愛いたします。
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