第52回 イギリス、国民投票後 その2
皆さん、こんにちは。引き続きイギリスEU離脱関連です。金融市場は落ち着きを取り戻しつつある一方、イギリスの政治は与党も野党も大混乱。まだまだ先が読めない状況です。「もうBrexitの話はたくさんだ!」という方に便利な表現は、”I’m BrexSick!” どうぞこの先はお読みにならないでください。
BrexSickでない方は、続けてお読みください。
1.cherry-picking いわゆる「おいしいとこ取り」。えり好み。
ドイツのメルケル首相はイギリスに対しUK can’t cherry-pick EU privilegesと警告しました。イギリスは単一市場(the single market)へのアクセスは強く望む一方、自由なヒトの移動(the free movement of people)は拒んでいるために、「EUのおいしいとこ取りは許さない」と厳しい態度を見せています。pick and chooseもcherry-pickと同様の意味で使われます。
2.Regrexit/ Bregret ブレグジット(Brexit)という言葉はもう日本にも浸透しているようですが、投票結果が出た後、Leave(離脱)に投票した人の中で「まさか勝つとは思わずに投票したのに…」と後悔している人が少なくないようで、regret(後悔する)との造語でRegrexitやBregretという言葉が生まれました。Brexitに入れて後悔している人がRegrexiters。一方、離脱派に囲まれていて本心を語れなかったSilent Remainers(隠れ残留派)も少なからずいたようです。
3.a liar 「嘘つき」と言えば、英語でこんなジョークがあります。
Q: How can you tell when a politician is lying?
A: When his lips move.
政治家の話に嘘が多いのはイギリスだけではないし、今に始まったことでもありません。でもその度合いが許容範囲のこともあれば、あまりにひどくて「ぜったいに許せない!」と全国民の怒りを買う場合があり、今回は完全に後者です。誰のどんな嘘でしょう?
今回a liarと呼ばれたのは英独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首。投票日直前まで “Let’s give our NHS the £350 million the EU takes every week(毎週EUが取り立てている3億5千万ポンドを英国民医療制度に使おう)” と訴えていたのに離脱派の勝利が決まった24日にその数値は間違い(a mistake)だったと認めたのです。3億5千万ポンドは確かにイギリスがEUに支払っている額ですが、EUから受けている補助金などを相殺すると純支払額は1億ポンド程度です。これはキャンペーン中からmisleading(誤解を招きやすい)と批判を受けていたにもかかわらず訂正していませんでした。投票結果が出たその日に突然誤りに気が付くということはありえないので、a liarと呼ばれている政治家の筆頭はUKIPのファラージ氏です。ただし、他の離脱派政治家も皆勝利確定以来、決まり悪そうな態度をとっています。
4.stab ~ in the back/ treachery/ betrayal 裏切る・裏切り行為
次の首相争いで大混乱が続くイギリスの政界ですが、先週「裏切り者」と呼ばれた政治家は誰でしょう? 上記3と4の答えに正解したあなたはBrexit通です!
EU残留を訴えていたキャメロン首相は、投票結果が出て数時間後には辞任表明を行いました。その時からABB(Anyone But Boris)という、「次首相にはボリス・ジョンソン氏以外なら誰でもいい」というキャンペーンが保守党内で繰り広げられる中、離脱派主導者の一人でありジョンソン氏の盟友、マイケル・ゴーブ司法相は自らが首相になる意思を完全否定していて、ボリス・ジョンソン元ロンドン市長をサポートするものだと誰もが思っていました。ところが首相レース立候補の届け出締め切り直前に自分が出馬するという驚きの発表を行い、ジョンソン氏は次期保守党首選を断念。このゴーブ司法相の行動は、裏切り行為だと批判されています。
5.sell-off, rally, rebound, depreciation, appreciation
投票結果が出た24日(金)はsell-off(セルオフ)が発生しました。これは大量の売りによって生じる株価急落のことです。ただし、週明けにはrally/rebound(反発、下がった相場が値上がりに転じること)。確かに金融市場に影響が出ましたが、「想定内」との専門家の意見もあり、先週の動きではリーマンショックのような大混乱というわけでもなさそうです。外為市場(foreign exchange market)ではポンド安(the pound has fallen/ depreciation of pound/ a weaker pound)、円高(the yen’s appreciation/ Yen surges/ The Japanese yen soared/ strong yen)となりました。通貨安・高の英語表現は動詞・名詞・形容詞を使って上記以外にも色々あるので、ぜひ英字新聞で確認してください。
6.Brexit 「またBrexit?」と眉をひそめられたかもしれませんが、別の意味でのBrexitが懸念されています。ここではbrain exitを合わせた造語。brain drain(頭脳流出)とも言われる現象です。イギリスの大学・研究施設では多くのEU市民が科学の分野で活躍しています。イギリスが移民の数を管理することにより、優秀なEUの科学者が英国大学からいなくなることや科学研究へのEUからの補助金がなくなることが心配されています。
7.Breturn/ Breversal
上記、1、2、3、4のような状況下、離脱派が選挙期間中に約束していたことは実現不可能であり、EUとの離脱交渉を率いる次の首相の顔も見えないことから、Breturn/ Breversalの可能性も高まってきました。つまり、結局は国民投票の結果を無視して、EU、あるいはEEAに残るということです。EEA(European Economic Area 欧州経済領域)という選択肢はNorwegian optionと呼ばれています。つまり、一応EUは離脱したことになりますが、単一市場へのアクセスを認められる一方、EUからの移民を無制限に受け入れ、EUの規制に従い、高額の負担金を支払う必要があるだけでなく、議会での発言権がなくなるので、「それだったらEUに残った方がましじゃないか」という流れでEUに残る可能性が十分にある、ということです。
以上、いつもより長くなりましたが、この一週間で使われた表現の一部を紹介しました。Brexit関連の話題でお役に立てば幸いです。
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