第51回 イギリス、国民投票後 その1
こんにちは。もう皆さまご存知の通り、6月23日にイギリスでEU離脱に関する国民投票が行われ、離脱派が僅差で勝利を収めました(Brexitについては本コラム第36回から第39回で特集しています)。「なぜこんなことに?」という疑問を抱いている読者の皆様に向けて、イギリス在住者として、最終的になぜ離脱派が勝利を収めたか個人的な視点からお話します。
イギリスには昔から反EU感情があったのは確かです。それが国民投票日が近づくにつれて増してきた理由の一つは選挙活動において離脱派のほうがTake back controlとポジティブな言葉を使って説得力のある訴えをしていたことだと思います。それに対し、残留派は経済危機に対する恐怖感を表現を変えて繰り返し訴えていましたが、離脱派はそれをscaremongering(デマを流して世間を騒がせている)と批判し「イギリスは世界で5番目の経済大国だから困難は乗り越えられる(We are the 5th largest economy. We can overcome the economic impact)」「それよりも我々の主権を取り戻し、自分たちの将来は自分たちで決めよう(take back control of our country/sovereignty/borders/destiny」と主張し、その言葉に説得力があったんだと思います。信じられないことですが、Euro 2016(サッカーの欧州選手権)でイングランドが勝ち進んだことで愛国心が高まり離脱支持も増えた、という報道もあります。
投票の集計結果を見ると、投票率(turnout)が高い地域(70%以上)は離脱派が勝利を収めたという傾向が明らかです。どの選挙でも反政府派は投票率が高い傾向がありますが、今回それに拍車をかけた要因が二つあります。
まずはメディア報道。数々の世論調査(poll)の結果、いったんは離脱派が優勢でしたが、直前に逆転し残留派が優勢となり、国民投票日の当日は金融市場にも安堵感が流れ株価(FTSEを含む主要株価)が上昇し、通貨はポンド高に動きました。ロンドン通勤者の大半は仕事帰りにEvening Standardという夕刊紙を読みますが、その日の表紙はRemain ahead in final poll(最終世論調査の結果、残留派優勢)という見出しと共にキャメロン首相夫妻がにっこり笑顔で投票に行く姿が掲載されました(写真参照)。「色々と騒がれたけど、やっぱり残留だよね」という安心感を与えるような報道で、残留派はほっとして投票に行かなかった人もいるのではないかと思います。
もう一つの要因は当日の天気です。ちょっとくらいの雨ならイギリス人は慣れていますが、前日から当日にかけ、イギリスは雷を伴う大雨に見舞われました。洪水のため閉鎖された投票所(polling stations)もあり、鉄道のダイヤは大幅に乱れ、ロンドンのビクトリア駅、ウォータールー駅などの主要駅では大混乱が起き、投票が締め切られる夜10時までに帰宅できなかった人も大勢いました。また、帰宅できても悪天候のため「どうぜ残留だし、わざわざ私が行かなくても」と投票に行くの思いとどまった人も多いのではないでしょうか。初めての投票を楽しみにしていた愚息も当日は悪天候のため行く気をなくしてしまったのですが、父親に勧められなんとか投票所に足を運びました。皮肉にも翌日は朝から青空が広がり、”UK Independence Day!” と祝杯をあげる人がいる一方で、「昨日もこんなに晴れていたら別の結果になっていたのでは……」と思わずにはいられませんでした。
いずれにしても、離脱に投票した人が大勢いたことは否定できない事実です。
これを受けて、EUの他の加盟国でも離脱を望む声が高まり、Frexit, Pexit, Czexit, Nexit, Italeaveなどの新語も生まれています(それぞれ、フランス、ポーランド、チェコ、オランダ、イタリアのEU離脱)。逆にロンドンは残留派が圧倒的なので「ロンドンが独立してEUに加盟しよう」というLondependance という動きも始まっています。
EU残留派のスコットランドは早速UK離脱に関する国民投票を再度実施する動きに入っていますが、晴れて(?)UKを離脱しても、その段階でEUがどんな状態になっているかは現段階ではまったく不透明です。ちなみに2014年のUK離脱に関する住民投票では85%という非常に高い投票率を記録したスコットランドですが、今回は70%に満たず、「そんなにEUに残りたいならちゃんと投票すればよかったのに」と思われるような結果です。同じく残留支持が多い北アイルランドは地域別に見た場合、最も低い投票率となっています。
国民投票のやり直しを求める声も高く、6月26日の執筆時で310万人の署名が集まっています。ところが、先月、残留派が僅差で勝つ見込みだった時にキャメロン首相は6月23日について「once-in-a-lifetime decision(一生に一度の決断)でありneverendum(終わりのない国民投票)ではない」と主張しているので後戻りは難しい状況です。
とにかく世界全体に影響を与える今回のイギリス国民投票結果。今後の動向も注視していきたいと思います。
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