INTERPRETATION

第54回 イギリス、Brexit体制整う

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

先週の原稿を提出した直後にイギリスの政界で急速な展開が繰り広げられ、ハイキャリア通信が配信される水曜日(7月13日)には内容が古くなっていて申し訳ございませんでした。もう皆さんご存知の通り、イギリスの新首相にテリーザ・メイ氏が就任し、大混乱状態にあったイギリスの政界、世界の金融市場が落ち着きを取り戻しています。そこで、今週も引き続き、Brexit関連の表現を取り上げます。

1.Brexit means Brexit and we’re going to make a success of it.

国民投票の結果が出た後、Regrexiters(第52回参照)が続出し、再投票を求める署名が400万以上集まり、「イギリスは本当にEUを離脱するのか」について多くの疑問の声が上がっていました。その疑問に対するメイ首相の答えです。「~を成功させる」を英訳するときの表現としてmake a success of ~。使えるようになるといいですね。

メイ首相のもとで、残留派と離脱派が一体となり、イギリスが困難を乗り越えて発展していけるというイメージが現実化してきました。

2. British humour? UK’s new foreign secretary is Boris Johnson.

新首相に就任し、早速組閣に着手したメイ首相。キャメロン内閣では首相の右腕として目立っていたオズボーン前財務大臣を更迭するなど、注目点がいくつかありましたが、最も意表を突いたのはボリス・ジョンソン氏が外務大臣に起用されたことでしょう。今までジョンソン氏はオバマ大統領を含む有名政治家に対し失言を繰り返すなど外交手段に長けているという実績はなく、同氏が外務大臣なんてイギリス流の冗談(British humour)じゃないかと世界の政治家から失笑もされていて、どんな顔で交渉の場に現れるのか、今後の動きに関心が寄せられています。就任早々、ニースでのテロ事件、トルコでのクーデター未遂など大きな事件が相次ぎ、執筆時現在(7月18日)ジョンソン外相は初めてEU外相会議に出席しています。

ところで、ジョンソン氏に加え、David Davisという離脱派のベテラン政治家にEU離脱担当大臣(Brexit minister)という新しいポストが与えられたことで、新政権がEU離脱に本気で取り組む姿勢が示されています。

日本の外務大臣はMinister for Foreign Affairsと訳されますが、イギリスではforeign secretaryと呼ばれます。米国ではSecretary of State(国務長官)が同等の職務を担当。ただ、複数の外務大臣を言及するときはforeign ministers。少しずつ違うので要注意。

3.Target of balancing the budget by 2020

前述のオズボーン前財務大臣は、2020年までに財政赤字をなくすことを目標に掲げ、緊縮財政政策(austerity measures)を実施してきました。それにより、多くの公務員が職を失い、生活保護の打ち切りにより貧困層の生活が苦しくなったことも今回の国民投票の結果につながったようですが、メイ首相がオズボーン氏をクビにした理由の一つは、新政権と緊縮財政を切り離すことだったと考えられています。早速上記目標は撤回され、インフラへの公共投資が期待されています。

balanceは、「(重さを)量る、相殺する、収支を合わせる、埋め合わせる」などの動詞用法と「はかり、残高、安定、平衡」などの名詞用法がある多義語なので、文脈に応じて適訳をつけるのが意外に難しい語。「バランス」と訳せるときもあるけれど、そうでないときの方が多いかもしれません。

以上、やっと先が見えてきたイギリスの様子についてお伝えしました。

個人的には、昨日地元の10キロレースで無事完走しました! 走るときのつらさと達成感は同時通訳と似ているといつも思いながら走っています。体力と精神力の両方が必要。これからもカメさんのようにマイペースであきらめずに頑張ります。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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