第37回 Brexit 特集 その2
皆さん、こんにちは。前回からBrexit(イギリスのEU離脱)問題を取り上げています。その2では、少し基本に戻り、そもそもEU(欧州連合)とは何なのかを一緒に考えたいと思います。というのも「EUを出たがるイギリス人がどうして増えたのか」を理解するためには、まずEUを理解することが大切だからです。
1.EUの生い立ち
現在のEU(欧州連合)が誕生したのは1993年ですが、誕生のきっかけは二つの世界大戦にさかのぼります。二つの大戦により、欧州の各地が荒廃し、またアメリカ合衆国とソビエト連邦という二超大国による世界の分断が進む中で、欧州が一致団結することで再興をはかろうという動きが活発化します。まずはフランスとドイツが仲直りすることから始まり、ベルギー、イタリア、ルクセンブルグ、オランダの4か国が加わってEuropean Coal and Steel Community(ECSC、欧州石炭鉄鋼共同体)が1952年に設立されます。その後、石炭鉄鋼以外にも領域を広げたEuropean Economic Community(EEC、欧州経済共同体)が1957年に誕生しました。
Brexit問題を考える上で、ここで注目していただきたいのは、EUの母体であるECSCやEECの当初の加盟国にイギリスは入っていない、ということです。イギリスは欧州の主要国であるためにEUの主要国でもあると思われがちです。ところが、イギリスは地理的にヨーロッパ大陸からは離れた島国ですし、アメリカとの関係も密接なため、大陸諸国の仲間に入るかどうか二の足を踏んできました。60年代に入り、やっとEECに加盟希望を申し出ても当時のフランス大統領に反対されるなどという経過があり、加盟が実現したのは1973年のこと。確かにイギリスは欧州の主要国ではありますが、EUの中核メンバーではないのです。このことは、イギリスが単一通貨ユーロを導入しなかったことと関連していると言えるでしょう。
2.EUの掲げる理念、ever closer unionについて
「絶えず緊密化する連合」などと訳されますが、EUは問題が発生する度に「お互いの連携を強めて、さらに統合すること」で解決しようとしてきました。1992年には単一市場(Single market)を形成し、人・モノ・資本・サービスの移動が自由化されました。2002年には共通通貨ユーロが導入され、現在19か国で使用されています。最終的にはthe United States of Europe(ヨーロッパ合衆国)を樹立しようという考えさえあります。ところが、今回イギリスがEU離脱の国民投票をするということで英キャメロン首相がEUに提案した改革案の内容は同理念ever closer unionに反するものであり、これまでのEUのあり方を根本的に変えるきっかけとなる可能性があります。
3.EUは国際連合(UN)のヨーロッパ版?
第二次世界大戦に設立された国際機関、国際連合(UN)と比較して、「EUはUNのヨーロッパ版なの?」と聞かれたら、どう答えるでしょうか?
どちらも戦後、国際的な平和と発展を目指して設立された国際機関ですが、質問の答えはNoでしょう。上記2からも明らかなように、EU諸国のほうがずっと強く結びついています。単一市場以外に、欧州議会(European Parliament)があることも大きな違いと言えるでしょう。EUの場合は、欧州議会(国会を拡張したようなもの)が設置されていて、議員は各加盟国から直接選挙で選ばれます。そこで採択されるEU法(Regulations規則、Directives指令、等)は、各加盟国の国内法に優先します。つまりEU法と国内法の間で矛盾があれば、EU法が優先的に適用されます。
また翻訳・通訳者の関心事としては公式言語の数も大きく異なります。UN加盟国の数は現在193か国に及びますが、公式言語は6言語のみ(英語、フランス語、ロシア語、中国語、スペイン語、アラビア語)。一方、28か国が加盟しているEUの公式言語はなんと24言語。これは各加盟国が公平に参加できることがEUでは重視されていることを表しています。マルタのようなミニ国家でもEUに加盟した時点から、すべての公式文書はマルタ語にも翻訳され、会議にはマルタ語の同時通訳がつきます。したがってEUの通訳や翻訳の量は莫大で、それにかかる費用が問題となることもありますが、ヨーロッパ言語の翻訳・通訳者にとっては、非常に魅力的な雇用の機会を提供しています。
以上、今回はBrexitを考える上で重要となるEUについて、3つの点から考察しました。次は、イギリス人にとってEUの何が不満なのか、を考えてみたいと思います。
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