第29回 通訳における「おはようの法則」
皆さん、こんにちは。
先週(1月19日)は、世界中のビジネスニュースで中国の直近の成長率について報道されました。
BBCニュースの見出しは、China economic growth slowest in 25 years。
英フィナンシャルタイムズ紙の見出しと本文冒頭は以下の通りでした。
China annual GDP growth of 6.9% lowest since 1990
Chinese steel production and power generation contracted last year for the first time in at least a quarter of a century, according to official statistics released on Tuesday, as the economy grew at its slowest pace since 1990.
ここでは、下線部のslowestに注意してください。中学生でも知っている簡単な頻出語ですが、この文脈で、あなたならどのように訳しますか?
「(成長が)最も遅い」では、なんだかしっくり来ませんね。
そういうとき、私は持論の「おはようの法則」を当てはめます。
ではまず「おはようの法則」とは……?
たとえばGood morning! を訳すときに「良い朝ですね」と訳す人はいませんよね。それは、「Good morning! というのは朝のあいさつで文字通りの意味ではない」、「同じような場面で日本人なら “おはよう(ございます)” という」ことを知っているからです。それを応用し、直訳でしっくりこないときは、「同じ場面でネイティブならどう言うか」を考えて(調べて)、それを用いることを「おはようの法則」と呼んでいます。
ここでは、中国の成長率発表のニュースについて、日本のメディアがどう伝えているかを確認すると、「25年ぶりの低水準」「25年ぶり低い伸び」などという表現が使われていて、「遅い」とか「遅くなった」はこの文脈では使われていないことが分かります。
同じトピックのニュースを日英両方のメディアで読んだり、聞いたりしながら、1つのアイデアがどのような異なった表現で使われているかを学ぶ勉強法を私の授業では「パラレルリーディング」と呼んでいます。ただ「パラレルリーディング」と検索すると「テキストを見ながら聞こえてくる音声をそのまま後について繰り返す練習」という意味で日本では使われているようなので、私がふだん勧めている「パラレルリーディング(並行読書)」とはかなり違うようです。いずれにしても、この「パラレルリーディング(並行読書)」をすることで「おはようの法則」を当てはめやすくなります」今回の例では、「25年」を25 yearsだけでなくsince 1990やa quarter of a centuryという表現も使われていることも学びではないでしょうか。
本コラムでは、皆さまのご意見・ご要望にもお応えできたらと思っています。これまで取り上げた内容の続編も含め、リクエスト・ご感想をぜひhi-career@ten-nine.co.jpまでお送りください。
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