第13回 「人として正しいことをする」という経営理念
先週のビジネスニュースで私がもっとも注目したのはフォルクスワーゲン社(VW)の排ガス不正問題に関連した一連のニュースです。米国の排ガス規制を逃れるために不正なソフトウェアを搭載していたことが明るみになり、同社の株価は暴落。謝罪した社長も辞任に追い込まれ、今後2兆円を超える規模の民事制裁金だけでなく刑事訴追や消費者による賠償請求の可能性もあるということですが、事件の波紋は日に日に広がる一方です。ヨーロッパ市場や他の自動車メーカー、ディーゼル車産業への影響も懸念されています。
まず、このニュースを英語と日本語で追っていて気がついたことは、英語の表現のほうがずいぶんcolourful(変化に富んでいる)ということ。その代表は、米子会社のホルンCEOが使った表現”We have totally screwed up”です。screw upというと「大失敗をした」という意味ですが、ふつうはごく親しい人の間でしか使わない俗語表現。それを正式な発表の場で用いた、ということで英語での報道ではどのメディアも書面では見出しに使われ、音声や動画ではその部分が抜粋されて報道されました。企業のトップがこのような表現を使って率直に失敗を認めたということも注目を浴びた理由のひとつでしょう。日本語の報道では「どうしようもない大失態を犯した」とか「完璧な大失態」と訳されていますが、レジスター(言語使用域)の大きな差と翻訳の限界を感じます。「完全にしくじってしまった」のほうが近いでしょうか。
他にも日本語報道では「不正」「違法」という表現が繰り返されている一方、英語ではmanipulate, rig, deceive, cheatなどの表現が使われていてニュアンスの違いを感じます。
今回はVWの株価が大暴落したことを受け、株価の動きに関連して使われる表現を取り上げます。
1.「(株価が)下がる」
ふつうに「下がる」という場合は、drop, fall, declineやdown。downは形容詞または副詞としてbe動詞やgo/move/comeなどの動詞と組み合わせてIn two days the share of Volkswagen went down by 36 percent (二日間でVW株は36%下落した)のように使われます。またdrop, fall, declineは名詞としても使われます。
「下がる」スピードが速く規模が大きい、つまり「急落/暴落する」という場合は、plunge, slump, plummetなどの動詞を使うと一言で表せますがdropやfallにsharplyやrapidlyなどの副詞を組み合わせることもできます。「株価大暴落」はcrashを用いてshare price crashとも言えます。
2.「(株価が)上がる」
ふつうに「上がる」という場合は、climb, rise, increase, up(downと同様の動詞と組み合わせ)。こちらも急に上昇する場合は、sharplyやrapidlyを付け加えられますが、soarやshoot upだとインパクトが強い感じがします。Share in XXX have shot up today following reports …(…という報道を受け、本日XXX社の株価が急騰しました)
3.「反発/回復する, 持ち直す」
いったん下がった株価がまた上昇する場合はrallyやrecover, rebound。rally in stocks(株価の持ち直し)のようにrallyやreboundは名詞でも使われますが、recoverの名詞形はrecovery。
ところで日本航空(JAL)を再建した稲盛和夫氏が昨年オックスフォード大学で講演されたときに、同時通訳を担当する機会に恵まれました。その通訳の準備で稲盛フィロソフィを学び、心から共感しました。実は、本コラムのプロフィールの最後に「グローバル社会の発展に貢献」とあるのは、その影響からです。
稲盛フィロソフィのひとつに挙げられているのが「人間として正しいことをする/Do the right thing as a human being」。日常的に色んな判断に迫られますが、私自身この判断軸を積極的に用いるようになってから自分の行為に自信が持てるようになり、幸福感も増したように思います。些細なこと、例えばゴミを仕分けして捨てる、という簡単な行為でも「正しいことをしている」という意識を持って行うとめんどうだと思わなくなっただけでなく喜びすら感じるようになりました。
また、「私心のない判断を行う/Make unselfish decisions」も稲盛フィロソフィとして挙げられています。
いずれにしても、フォルクスワーゲン社が稲盛フィロソフィに沿った経営理念を掲げていれば今回のような不祥事は起こらなかったことでしょう。環境技術の高さで知られていた企業が不正操作によって規制基準を満たし、実際の走行時は基準の最大40倍もの窒素酸化物を排出していたのですから、刑事責任が問われて当然だと思います。
回り道に思えても「人として正しいことをする」ことの大切さを改めて感じたニュースでした。
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