INTERPRETATION

第7回 That’s a good question.と返されたら”いい質問”をしたってこと?

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

 みなさん、こんにちは。日本にいる方は、お盆休みが明けたところでしょうか。のんびり過ごしたにしてもどこかへ出かけたにしてもそれぞれリフレッシュしてエネルギー補給されたことを願います。イギリスの学校の夏休みは日本とほぼ同じ時期にありますが、中高生でもクラブ活動や夏期講習どころか宿題もなく、暇をもてあそばせている子が多いです(うちの次男も……)。こちらは特に「お盆休み」というのはありませんが、夏休み中に親も2週間ほど休みをとって家族旅行をするのが一般的です。

 今週の大きな経済ニュースは、中国が通貨人民元の切り下げに踏み切ったことを受け世界的な株安が引き起こされたこと。これは経済への不安の表れが示された出来事ですが、ギリシャがやっと金融支援を受けられることが決定するという朗報もありました。これで当分Grexit(ギリシャのユーロ圏離脱)の心配はなくなります(問題先送り、との声もありますが……)。

 ただ今回のコラムでは、経済ニュースからは離れてビジネス会議にあまり慣れていない方を対象に役立つ表現を5つ紹介します。

1.まずは、タイトルのThat’s a good question. 日本語話者の質問に対して相手がこんな風に答えたら、どう訳しますか? 

 文字通り「いい質問ですね」と訳すと、質問した人は「よくぞ聞いてくれた」とほめられたように感じるでしょうが、英語話者にそんな意図はあるのでしょうか? 実はこの表現、聞かれたくないことを聞かれたとき、返事に困るときなどに時間稼ぎのために使われる表現なのです。だからといって「困った質問をしますね」「答えにくいのでちょっと時間稼ぎしています」とまで意訳していいのでしょうか。「えーっと、そうですね」くらいだと思いますが、実際にどう訳すかで通訳者の裁量を示すことになる、意外に訳しにくい表現です。

2.「テレビ会議」を英語にするとどうでしょうか? 

 日系企業のイギリス支社など日本人が多い環境ではTV conferenceという和製英語(?)が使われるのも聞きますが、一般的にはvideo conference。またカメラを使わず音声だけで複数の人が話し合う場合はconference call (電話会議)と呼ばれます。audio meetingとかaudio conferenceというとビデオではなく音声のみということが明確になります。最近は会議専用アプリを用いたウェブ会議(web conference)も増えています。ウェブ会議ではパソコン画面を共有できるので、同じ資料を見ながら話すことができます。「テレカン(teleconference)」というと、これらの遠隔会議形態すべてが含まれます。グローバル化が進むにつれ、地球の反対側にいる人たちがテクノロジーを通して会議をすることが増え、その通訳の需要も高まっています。このような通訳は、話し手の表情や口の動きが見えにくく音声も聞き取りにくいことが多いのでフェースツーフェースよりも難しいのですが、グローバル化社会の発展のためには通訳者としてできる限り協力すべきだと思います。

3. 「ちょっと口を挟んでいいですか?」を英語にするといかがでしょう? 

 「介入する」という意のinterruptも使われますが、ネイティブの会話ではCan I just butt/come in here? のようにbutt inやcome inなどの軽い表現も出てきます。通訳者としても状況に応じて、このような少しカジュアルな表現も使えるとよいでしょう。

4.会議で「たくさんの議題について話し合う」「色々な問題を扱う」という内容を英語にするといかがでしょうか?

 こんなとき、cover a lot of groundという慣用表現が出てくると便利だと思います。例えば会議の終わりに議長が「非常に有意義な会議で、短い間に色んな議題について話し合うことができました」などと締めくくったら、

It was a very productive meeting and we managed to cover a lot of ground in a short time.

と英訳できます。ここではaが3回使われています。aやthe、名詞の複数形など、日本語には出てこないところも正しく英訳できるといいですね。

5.EGMとは何の略でしょう?

 本コラムの第一回でAGMを取り上げましたが、覚えてらっしゃいますか。これはAnnual General Meeting(年次株式総会)の略で、単にannual meetingとも言われますが、何か事態が発生し次のAGMまで待てない場合に開かれる会議をEGM(臨時総会)と言います。Extraordinary General Meetingの略。現在「お家騒動」で話題になっているロッテホールディングスが8月17日にEGMを開くことになっています。本コラムがウェブサイトにアップされるころにちょうど開催される予定で、韓国語の通訳者がご活躍中かもしれません。

 以上、会議で使われる表現を5つ取り上げました。少しでもみなさんの学びにつながれば

幸いです。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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