第147回 番外編:イギリスの大学生 財政面
皆さん、こんにちは。今日はソウルで執筆しています。先週、結局予定していたフライトは前日に欠航が決まり、次の便まで5泊も延泊することになりました。それでも関西圏から飛ぶことはできず、大阪>成田>ソウル>ロンドン・ヒースロー>自宅と45時間ほどかけて帰る途中です。
さて、先々週から番外編としてイギリスの大学事情について個人な視点からお伝えしております。今回は、イギリスの大学生が財政面でどうやりくりしているかを取り上げます。
最近は日本でも奨学金を受け取って大学進学する人も多いようですが、バブル時代に大学生活を送った私の世代はほとんどが親のすねかじりでした。私も学費や生活費は親に甘え、バイト代は遊び代などに使っていました。それで自分も息子の教育費は出すべきだと思い、少しは貯金をするようにしていました。
けれども息子が中学(イギリス英語ではsecondary school)のころ、先輩の日本人ママから「イギリスでは皆学生ローン(student loan)を借りるから、うちもそうした。結局、子供が3人みな大学に入ったけど、意外に親の負担は軽かった」という話を聞き、イギリスの事情が日本とはかなり違うことに改めて気が付きました。
イギリスでいう「student loan」は日本の「奨学金」とはかなり異なります。詳しくはリンク先をご覧いただければと思いますが、一番の違いは返済方法(repayment)だと思います。
イギリスの大学は基本的にすべてが国立で、学費はイングランドなら年間9250ポンド(約138万円)までと設定されています(詳しくはこちら)。ローンも国から学生本人の名義で借ります。返済は会社員の場合給料から天引きされます。ただし、卒業後すぐに返済が始まるのではなく、年収が一定額(£25,000、約375万円)に達してからです。しかもこちらの返済プラン(Repayment plan 2)にあるように、その額を稼ぎ始めても1カ月15ポンド(約2000円あまり)など比較的楽な支払いプランが設定されています。そして一番驚きなのが、返済開始してから30年経っても残額がある場合は時効扱いとなり借金が消滅するのです(こちらのサイトのWhen my student loan be written off?を参照)!
日本では奨学金の返済に苦しみ自殺者まで出ているそうですが、イギリスの融資制度ではそのようなことはありえない仕組みとなっています。
ですから、ほとんどのイギリスの学生は学費(tuition)と生活費(maintenance loan)を国から借りていて、愚息も然りです。
ただしmaintenance loanだけでは少し足りないので、残りはアルバイトをしたり、親から援助してもらったりしながら学生生活を送るのが一般的です。
ところで大学の学費は私が渡英したころまでは無料でした。夫は学費を1銭も払わないどころか給付金までもらって博士号を取っています。けれども1998年に学費が年間1,000ポンドと有料化され、2006年には3,000ポンド、2012年にはいきなり9,000ポンドにまで引き上げられました(入学金はなし)。現在の9250ポンドだと日本の国公立と比べて割高感がありますが、前述の学生ローンの制度のせいか、進学率は上がっています。
このような「ゆるい」ローン返済制度の背景には、貧困家庭の子供たちの進学率を引き上げるという狙いもあり、それは功を奏していると言えるでしょう。
学びたいという気持ちがある人が学べる環境がある、というのは大切だと思います。教育によって個人が成長することはゆくゆくは経済の活性化、国の発展につながります。日本にもイギリスのような学生ローンの制度が導入されるといいなと思います。
以上、今週はイギリスの大学生の金銭面についてお伝えしました。留学生の場合は事情が異なります。
(乗り継ぎ旅行者への配慮が整っている仁川空港にて)
2018年9月17日
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