INTERPRETATION

第23回 翻訳勉強法

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

 皆さんこんにちは。ゴールデン・ウィークはいかがでしたか?今年は天気も良かったので、遠出した方も多かったのではないでしょうか。私は残念ながら通訳と翻訳の仕事にかかりっきりで、仕事の合間にちょっと出かけるだけで終わってしまいました。普段やらない翻訳でしたが、やってみると英語の勉強にも活用できる部分があると思いましたので、今日は、翻訳をどうやって勉強に活かせるのか考えてみたいと思います。

 仕事として翻訳をしたことはなくても、英語から日本語にするというのは、学生時代の英文和訳問題を含めると誰でも一度はやったことがある作業だと思います。翻訳と英文和訳の違いは、仕上がった日本語の質にあります。前者は元の英語が想像できるような日本語ではなく、出来る限り日本語としていかに自然かを追求します。後者は日本語の自然さはさほど追求されず、いかに正確に英語を理解できたかを日本語の中に盛り込むことが重要になりますので、直訳調になることが多くあります。

 ここで翻訳というプロセスを3つに分けてみましょう。

① 原文(英語)を読み、内容を理解する

② 辞書やネットを使って訳語を探し、日本語にする(ほぼ直訳)

③ 日本語を読み直し、日本語の文章としてできる限り自然なものにする

 社内用資料のように日本語の美しさよりもスピードが求められるものに関しては、ある程度直訳調になったり、訳語が思いつかなければカタカナにしたり、場合によっては英語のまま残したりしても、意味さえ正しく通じればいいというケースも少なくありません。

 今回納品した翻訳のように、印刷に回わり冊子になるようなケースの場合は、③のプロセスが納品物の質を左右しますし、実際この③のプロセスに一番時間がかかりました。この段階まで来ると、英語力ではなく日本語力の問題になります。自分が考えうる日本語を絞り出し訳していくことで、英語らしさが抜けていきます。通常はここで作業終了なのですが、時間をかけて訳したものを活用しない手はありません。

 授業でよくやるのですが、自分で丁寧に訳した日本語を今度は英語に戻してみると、英語のアウトプットの練習にとても有効です。翻訳したばかりよりは、原文の英語を少し忘れてしまったくらいのタイミングだとより効果があります。原文の英語らしさを排除した日本語なので、すぐに英語が出てこないかもしれません。しかし元々自分が訳した文章なので、頭の片隅に残っている原文の英語が口をついて出てくることに驚くかもしれません。

 もちろん原文の英語でないといけない訳ではありませんので、自分の持っている語彙や表現を使っても構いません。ここでの学習ポイントは日本語を見ながら、声をだして英語にし、それを録音していくことです。日本語の内容を誰かに伝えるつもりで英語にしてみてください。録音したものを聞きながら、原文の英語と突き合わせてみることで、自分の英語がどの程度通じるかわかると思います。

 日本語→英語の練習(スピーキングやライティング)の場合、初見でやろうとするとなかなか英語が出て来なかったり、折角英語にしても模範解答がない、またはあったとしても自分の考えた英語とは全く違っていたりする場合がほとんどだと思います。その点自分で訳したものであれば、ある程度原文の英語は覚えているので、模範解答(原文の英語)と全く違う英語が出てくることも少ないですし、何よりも自分が訳した日本語を英語にしているので、英語の模範解答を見た時も違和感なく受け入れられるはずです。

 英語から日本語に翻訳をする作業そのものから英語の理解力を高めるという効果がありますが、自分で訳した日本語を英語に戻すことで、英語の発話力を高めることもできます。日本語を英語にする練習教材で、自分に合ったものを探すのはかなり大変です。難易度もそうですが、自分のレベルに合った模範解答の教材はなかなかあるものではありませんので、英語の発話力、語彙、表現力を伸ばしたい方にはお勧めです。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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