INTERPRETATION

第16回 単語で自信を

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

 早いものでもう1月も終わりですね。12分の1終わってしまったと考えると恐ろしい気もしますが、まだ12分の11残っていると思うと頑張れる気がします。

 前回、集中的にリスニングをするという例を挙げて、普段しないような勉強方法で自信をつけるという話をしました。今回はもう一つ例を挙げたいと思います。

 社会人向けの講座で英語をどうやり直すかという講座を担当したことがありました。辞書の引き方、文法の勉強の仕方、リスニングやリーディングの勉強方法の他に単語の覚え方についても話をします。連載最初の頃に忘却曲線の例を出して、我々がいかにランダムに覚えたものを忘れてしまうのかについてお話をしましたが、その話も講座の中で行います。

 英語の勉強=単語を覚えるというわけではありませんが、単語を知らなければ何も始まらないのも事実です。そこで、英語をやり直したい方、基礎力が不安定な方にはまずは基本単語を覚えてもらうようにしています。毎回の授業で20個覚えてきてもらうようにしているのですが、英語が久しぶりの人にとっては20個を覚えるのにも半日かかったという人もいたり、覚えたと思ってもクラスでテストをすると思ったよりも覚えられておらずがっかりした人もいました。

 こういう方のほとんどは真面目に言われた通りに毎日20個を覚えようとします。この講座で覚える単語の数が500個ですから、25日で1回500個をカバーすることになります。ペースとしては悪くはないのですが、本来毎日単語を覚えていけば、だんだんとコツをつかみ、覚えるスピードが上がっていくはずです。数年前にある大学の夏期講座で単語特訓クラスというのをやりました。1日6時間5日間で同じ単語のテキスト(500個)を覚えるという講座だったのですが、最初生徒は「5日で500個なんて、今までやったこともないし、絶対無理!」というかなり懐疑的な人が多くいました。初日が終わり、覚えるコツがわかるとどんどん覚えていき、最終的には参加者全員が500個を覚えることができました。

 この話を先ほどの社会人講座ですると、”えー!!”と驚きの声があがります。1日20個の単語を覚えられない人にとって、1日100個の単語を覚えるなんて到底ありえないと頭で考えてしまいます。実は5日で500個を覚えたといっても均等に100個ずつ覚えたわけではありませんでした、初日はコツをつかむのに時間がかかるので、目標を50個程度にして、翌日から120個、その次に170個というように目標を毎回上げながら5日目に500個を覚えてもらいました。

 ここで大切なのは5日で500個を覚えたということではなく、毎回目標を上げていったということです。たとえ1個でもいいから昨日よりも多く覚えるということを目標にしていけば、必ずその目標を達成できます。毎日20個でいいと決めてしまうと20個以上覚えることはいつまで経ってもかなりの心理的負担になりますし、ましてや100個なんで絶対に無理と思い込んでしまうのです。

 忘却曲線でお話をしましたが、1回で完璧に覚えることは不可能です。どうしても忘れる単語がありますので、なるべく単語を見る回数を増やす以外方法はありません。1日20個で25日かけるのか、頑張って1日100個覚えて5日で1回終わり、6日目からまた2回目を始められるのかでは大きな違いが生じます。

 私が大学受験の勉強をした時もどんどん単語を覚える量を増やすようにしていきました。その当時は若かったこともあったのか、週末のどちらかを単語を覚える日と決めて1日500個以上単語を覚えていました。もちろん最初から500個覚えられたわけではありませんし、そこまで覚えられるとも思っていませんでしたが、必ず昨日よりも多く覚えないと寝ないというルールだけを自分に課して続けた結果500個程度であれば抵抗なく覚えられるようになりました。実際には、個数というよりも1日で単語集の単語を全部覚えることが最終的な目標になりましたので、1日で覚えた単語数は500個以上あったと思います。

 500個を覚えるとなると1時間や2時間ではもちろん覚えられませんが、短期間でそれだけの数を覚えられると、1日20個を覚えている人の25倍のスピードで勉強が進むので、達成感や自信も得られます。何よりも基本的な単語力が付いた方結果、リーディングやリスニングといった他のスキルも加速度的に伸びていきました。カンフル剤を打って急に元気になるような感じでした。

 語学は継続が大切と言われていますが、継続というのは同じような勉強内容を毎日少しずつ積み重ねていくという意味では必ずしもないと思います。自分の現状を分析して、今何が必要なのかを把握して、それに合ったやり方を工夫していくことを継続することが大切で、常に今の自分に挑戦し昨日よりも少しでも力をつける努力をする必要があると思います。

 毎日同じようなことを続けても、あるところで頭打ちになります。マンネリになっている方はカンフル剤的な勉強も取り入れてみてください。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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