INTERPRETATION

第11回 3秒ルールで効率化

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

 前回から単語を覚える方法を細かく見ていています。まずは自分の単語集を作ることの重要性について話しました。市販でいろいろな単語集が出ており、著者がそれぞれの視点で単語を選び、その単語に必要な情報をまとめてくれています。市販の本にしてしまうと、なるべく多くの人に使ってもらえるように、情報量が必要以上に多くなりがちです。

 レベルが高い人にとって必要な情報なのか、やり直しで必要な情報なのかの区別があいまいだったり、初心者向けの単語集にもかかわらず、例文が難しすぎたり、誤解を招くような訳語があったりと一見便利そうに見える市販単語集でも実はやり直しには不向きなものが少なくないのです。ベストセラーだからいいのではなく、あくまでも自分が最後まで読めそうかどうかで判断した方がいいと思います。市販の単語集はお互い研究し合っていますから、見出し語レベルでそれほど違いはありません。レイアウト、解説の量と質、例文のレベル等で、直感で決めていいと思います。

 日々勉強していく中で出会った単語を自分の単語集に書き入れていく作業と同時に、短期的に単語力をアップさせるために自分の直感で選んだ市販の単語集もうまく活用して行きましょう。単語集を買って数日は頑張って覚えてみたものの、進めていくにつれて何となくモチベーションも下がってきて、最後まで行かずに終わった経験はありませんか?また別の単語集を買ってみても、最初は頑張るものの、後半に入るとどうしてもペースが落ちてしまうのはよくあることです。

 単語集は1回終わってからがスタートです。忘却曲線でお話ししましたが、我々は確実に覚えたことを忘れていきます。それを防ぐためにはやはり”繰り返す”しかないのです。第一ラウンドが終わって、第2ラウンド、そして第3ラウンドくらいやって初めて、「単語ちょっとわかるようになってきたかも」という感覚が持てます。人との出会いと例えると、第一ラウンドはあくまでもその人との顔合わせで名刺交換した程度、第2ラウンドでちょっと話をしてこういう人だったんだという気付きがあり、第3ラウンド辺りからAさんって~な人なんだよねって、他の人に説明できるようになるのと同じように、単語もやはり第3ラウンドくらいで「この単語ってこういう使い方するよね」って他の人に説明できるようになります。

 ただし顔合わせをしてから、何か月または何年も間を空けてしまうと、「どこかでお目にかかったことありました?」とまた顔合わせステージから始めないといけません。ですからポイントは顔合わせの第1ラウンドからいかに間を空けずに第2、第3ラウンドへ進められるかがポイントです。

 単語集の全てがわからないわけではないでしょう。中にはすでに知っている単語も少なからずあるはずです。でも多くの方が全ての単語を同じように覚えようとします。果たしてそれでいいのでしょうか?私は単語を覚えるときに「3秒ルールでチェックする」ことをお勧めしています。先ほど第1ラウンドは顔合わせといいました。顔合わせの段階であまり細かい話はしないのと同様に、単語を覚える場合でも、知ってるかどうかだけを確認するだけで大丈夫です。単語を見た瞬間の3秒間で、意味がすぐに出てきたら○、3秒考えてわからず訳語を見て知っていたら△、訳語を見ても全く分からない場合は×を付けていきます。

 単語リストの上から1つずつ覚えていくとどうしても後半に行けばいくほど精度が落ちます。本当に時間をかけないといけない単語はどれかの優先順位を付けてから、それぞれの単語にどれだけの時間をかけるのかを決めていくことがとても重要です。その日に覚えたいリストを3秒ルールで○、△、×を付けたら、次に×の単語を覚え、それが終わったら△の単語を覚えていき、時間があれば○の単語を確認していくようにすると、単語力の底上げができます。

① その日に覚える単語リストを3秒ルールで○、△、×を付けていく

② ×の単語→△の単語→○の単語の順番(リストの上からではない)で覚えていく

③ その日の終わりまたは翌日の早い段階(24時間以内)に再度同じリストを3秒ルールでテスト

 

 この③の段階で×→△または○、△→○になっていれば、単語の覚え方がうまくいっていると考えていいと思いますので、このままそのやり方を継続してください。もし×→×、△→△または×という風に効果が出ていないケースが多い場合は覚え方の工夫が必要だというサインです。この覚え方の工夫に関しては、別の回で説明していきます。

 この3秒ルールのいいところは、単語の理解度に合わせてその優先度を見極め、学習時間を割り振る以外に、早く第1ラウンドから第2ラウンドそして第3ラウンドへと進めるというメリットもあります。一つ一つの単語を確実に覚えたいという気持ちもわかりますが、そうしているとなかなか第1ラウンドが終わらず、知り合いになる第2ステージがどんどん遠くなっていきます。単語によっては何度覚えても覚えられない単語が必ずあります。その単語に他の単語の何倍も時間をかけるよりも、覚えられないものは次のラウンドに回すという割り切りも必要です。

 第1ラウンドから第2ラウンド進んでも、3秒ルールでスクリーニングをしていきます。第1ラウンドで×→△または○、△→○にするように覚えた結果、時間のかかる×の単語の数が当初よりも大きく減っているはずです。この第2ラウンドでは特に×の単語と第1ランドでは割り切って捨てた単語を中心に絞り込んで覚えていきます。このようにラウンドが進むにつれて、覚える単語をどんどん絞り込んでいきます。

 

 この3秒ルールでのスクリーニングですが、レベルによって負荷を変えることも大切です。単語には通常複数の意味があります。初心者の場合は、その中の1つでも3秒以内に答えられたら○とし、レベルが上がるにつれて訳語を全て言えないと○にしない、というように自分に合った負荷をかけるようにしてください。負荷が高い=学習効率が高いわけではありませんので、完璧主義にならないようにして、自分に合った負荷を適時かけてください。一番大切なのは第1ラウンドから第2ラウンドそして第3、4ラウンドとできるだけ短いサイクルでラウンドを進めていくことです。頑張ってください。

次回は覚えられない単語はどうするのかを考えてみたいと思います。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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