INTERPRETATION

第6回 サイトラの作法

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

 前回は、英語を聞いたり読んだりするときに”与えられた情報”を受けて、次の情報を予想していくことの重要性についてお話ししました。そのために、サイトラで前から理解していくことが必要となります。サイトラ(スラッシュリーディング)という言葉は10年前と比べるとかなり一般的になってきました。しかし”ただ前から読む”とか”スラッシュを引いて読む”という風に考えている人が少なく、具体的にどうやるのかはあまり理解されていないようです。以前担当したクラスでは、一度文章に目を通してから、スラッシュを入れたり、区切る場所を考える人もいました。

 市販の教材の中には、すでにスラッシュを引いてあり、それを手掛かりに英文を読むものもあります。慣れないうちはそういう教材を使うことも一つ手のではありますが、サイトラ(スラッシュリーディング)のトレーニングで一番力が付くのは、区切りを探していく(またはスラッシュを引いていく)部分にあります。区切る場所を見つけて、スラッシュを入れるだけの作業ですが、実は文法力、構文力、語法・語彙力を駆使しなければならないプロセスなので、適切な場所で区切ってスラッシュを引けるかどうかで、こういった知識が十分にあるかどうかを確認できます。

 よくある間違いの中に、機械的に細かく区切る(スラッシュを入れる)パターンがあります。前回の例”It’s useful to have a rule of thumb on what to wear, and for my money, it’s usually better to be overdressed than underdressed.”を使うと、次のようになります。

It’s useful (それは役に立つ)

to have a rule (ルールを持つ)

of thumb (親指の)

on what (何かの上に)

to wear (着るために)

and for my money (私のお金のために)

it’s usually better (普通やより良い)

to be overdressed (オーバードレスであること)

than underdressed (アンダードレスよりも)

 あまり考えず、意味が分かる単語(上記のアンダーライン部分)だけの意味を考えて、何となく区切っています。次にどういう情報が来るのか、その前の部分とどういう関係なのかは全く考えられていません。このようなパターンは構文力や語彙力が弱い人、初級者・中級者によく見られます。構文力というと、昔高校で習ったIt is ~ that・・・の強調構文といった力だと思われるかもしれませんが、実際には、文章がどういう情報の固まりで出来ているのかを見極め、その前後の固まりとどういう関係なのかを前から読み解く力といった方がいいかもしれません。この力がないとサイトラをしても、上記の例のような分け方になり、内容も分からないし、場合によって誤訳になることもあるのです。

 構文力がまだ弱い人、サイトラに慣れていない人はどうやって情報の固まりを見分ければいいのでしょうか?文章の中の区切りのポイントが大きく分けて5つあります。まずは①から④までのポイントを説明します。

① 不定詞の前

② 関係代名詞の前

③ 接続詞の前

④ 前置詞の前

 次の例文で確認していきます。

I went to the office yesterday to finish the presentation that I would be giving on Monday even though yesterday was my day-off.

 上記の①-④のルールで区切ってみると、次のようになります。

I went to the office yesterday / 昨日オフィスに行きました

to finish the presentation / プレゼンを仕上げるために

that I would be giving / 私がすることになっている

on Monday / 月曜日に

even though yesterday was my day-off. / 昨日は出社しなくてよかったんだけど。

 上記の不定詞(to finish)、関係代名詞(that)、接続詞(even though)の前では、必ず区切れます。前置詞の場合、全ての前置詞で毎回区切ると逆に意味がわかりにくくなるので、時、場所以外の前置詞は文脈に合わせて考えてください。

 5つ目のポイントは

⑤ 分詞(現在分詞または過去分詞)の前です。

以下の例文で確認してみましょう。

As the quality of our chemicals directly impacts the end products purchased by our customers, we also place a high level of importance on quality control.

 5つ目のポイントを使って区切ると次のようになります。

As the quality of our chemicals directly impacts the end products /我々の化学品の品質が最終商品に直接影響するので、

purchased by our customers, /我々の顧客が購入する

we also place a high level of importance/我々は非常に重視している

on quality control. /品質管理を

上の例の下線purchased(過去分詞)とon(前置詞)の前で区切っています。

 このように①から⑤までの品詞が来たら、一般的には区切り(スラッシュ)を入れるポイントとなりますので、まだ慣れていない方はこのポイントを使って文章を前から区切って理解していく練習をしてみてください。また皆さんの練習のためにサイトラの練習問題を用意しましたので、一度試してみてください。

ビジネス英語用:

http://www.aocjapan.com/mailform/dojo-biz/sighttrans-dojo-biz.html

通訳トレーニング用:

http://www.aocjapan.com/mailform/dojo-interpret/sighttrans-dojo-interpret.html

サイトラの練習を続ければ、必ず読む力そして聞く力が伸びますので、3か月間続けてみてください。頑張りましょう!

Written by

記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

END