INTERPRETATION

第5回 リスニング強化もサイ トラを

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

前回はリスニングのトレーニングは聞くだけでは伸びないという話をしました。読む力がある程度ある人が音を聞くトレーニングをすること、比較的スムーズにリスニング力が伸びていきますが、読む力が弱い人の場合、音を聞くトレーニングをしても空回りしてしまい、成果がなかなかでないことがよくあります。よく考えてみると、読んで理解できないものを聞いて理解できるわけがないわけですから、読んで理解できる範囲を広げていくことが重要なのは当然のことです。

前回のコラムで”It’s useful to have a rule of thumb on what to wear, and for my money, it’s usually better to be overdressed than underdressed.”という例文を挙げましたが、皆さんはどのように理解しましたか?個々の単語自体は平易なので、ぱっとみると何となくわかったような印象を持った人も多いかもしれません。

時間な制約がないのであれば、学校で習った英文解釈や翻訳をしてもいいのかもしれませんが、限られた時間の中で情報を処理しなければならないビジネスでは、スピーディに情報を処理するスキルが求められています。じっくり英文を最初から最後まで読み、構文を分析したり、修飾関係を考えたり、後ろから前に訳しあげ、適切な日本語に変換していくような余計な手間はかけられません。

しかし実際には、日本で英語を勉強してきた人は、英語を理解する=英文解釈・翻訳をするという考えに縛られている人が少なくありません。このような英文解釈や翻訳式で理解していく方法を続ける限り、英語をスピーディに理解していくことは不可能ですし、聞こえてくる英語もそのままダイレクトに理解することもできません。

先ほどの例ですが、英文解釈や翻訳式では、「どういった服装にすべきか大雑把な目安があれば便利ですが、私の意見では、通常はカジュアルすぎる服装よりはフォーマルすぎる服装をした方が安全だと思います」というような感じになると思います。しかし英語を聞きながら、同時にこのような訳を考えていくことは非常に負担がかかります。

そこで英語を前から処理していくサイトラを使ってみてください。サイトラとはSight Translationの略で、文字を見た通りに前から理解していくやり方で、スラッシュリーディング、チャンクリーディングという人もいます。実際に先ほどの例をサイトラで処理すると次のようになります。

It’s useful (役に立ちます)

to have a rule of thumb (大雑把なルールを持つことが)

on what to wear(何を着るのかについての)

and for my money(そして、私に言わせれば)

it’s usually better(通常はより良い)

to be overdressed than underdressed(カジュアルすぎる服装よりはフォーマルすぎる服装することが)

※a rule of thumb、for my moneyはイディオムで、それぞれ「大雑把な目安、決まり」「私に言わせれば」という意味になります。

いかがでしょうか?日本語としてはぎこちなさも残りますが、意味を捉えるという点では全く問題ないと思います。このような形で前からどんどん理解していくことができるようになれば、読むスピードは言うまでもなく伸びますが、聞いて理解する力も格段に伸びます。どの言語でもそうですが、徐々に情報が積み重なり、最終的に内容がわかるようになっています。情報が与えられ、それを受けて、次にどういう情報が来るのかを予想しながら次の情報を待つことが重要です。それでは、〈与えられた情報〉と〈その情報を受けて、次を予想するプロセス〉を見てみましょう。

〈与えられた情報〉→(次の情報を予想するための頭の中での処理)

〈役に立ちます〉→(何が役に立つ?)

〈大雑把なルールを持つことが〉→(何のルールが?〉

〈何を着るかについての〉→(なるほど、で次は?)

〈そして私に言わせれば〉→(何に関して?)

〈通常はより良い〉→(より良いって、何に比べて?)

〈カジュアルすぎる服装よりはフォーマルすぎる服装することが〉→(カジュアルすぎる服装よりはフォーマルすぎる服装の方がより良いってことだったのか!)

このように〈与えられた情報〉を受けて、(次の情報を予想するための頭の中での処理)を行うことで、話の流れがつかみやすくなります。サイトラで前から理解していくことは少し練習をしていけば、できるようになりますが、(次の情報を予想するための処理)が案外できていないケースが少なくありません。

〈与えられた情報〉だけを見ていくと、話の流れがわかりづらくなることがありますので、〈与えられた情報〉から(次の情報を予想するための頭の中での処理)をしっかりと行うようにしてください。与えられた情報に対して、次にどういう情報がくるのか常に予測する癖をつけることで、読む力そして聞く力を強化することができます。

次回は前から理解していく時に、どこで区切ればいいのかを考えてみたいと思います。皆さんも普段どういうところで区切っているのかを考えてみてください。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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