INTERPRETATION

通訳美人道「6. 危機管理術」

柴原早苗

通訳美人道

通訳美人道 危機管理術
第1カ条 普段の生活の中で危機管理を
 毎年9月は防災月間。フリーランスで働く通訳翻訳者にとって、災害などが起きた場合、自分の仕事・収入に大きな影響が出てきてしまいます。そこで今回の「美人道」では個人でできる危機管理術をご紹介しましょう。危機管理はわざわざ改めて行なうものではなく、普段の生活の中で工夫を積み重ねることができます。では早速見てみましょう。
第2カ条 最後に頼りになるのは紙
 今や何でもパソコン・携帯に頼る時代。でも地震などで停電が起きてしまった場合、電気はまず使えなくなります。「パソコンにすべてのアドレスが入っていた」「書きかけの書類がハードディスクに入ったまま」では、復旧するまで取り出すことができません。そうなると最後に頼りになるのは紙。住所、メールアドレス、電話などの連絡先はパソコンや携帯のアドレスブックだけでなく、紙の名刺ファイルやアドレス帳に転記しておくことをお勧めします。災害のとき、連絡先が分からないと「誰にも連絡取れない・・・!」ということにもなりかねませんよね。
第3カ条 フリーランスにとって履歴書と職務経歴書は命
 先の第2カ条と関連しますが、履歴書や職務経歴書もハードディスクだけでなく、バックアップをとっておくことをお勧めします。フリーランスは仕事の積み重ねが次の仕事につながるだけに、履歴書や職務経歴書を詳細に記録する必要があります。せっかく記録したデータがすべて飛んでしまった場合、手帳や仕事用書類をひっくり返して一から作成しなおすことに。これでは大変ですよね。私は新しい仕事をするたびに職務経歴書をアップデートし、ハードディスクだけでなく、自分のウェブメールアドレスにも送信して保存しています。ウェブメールの便利なところは、いつでもどこでも取り出せること。さらに定期的に印刷しておくことで、データ紛失に備えています。
第4カ条 ナビは使えない
 たとえば出先で地震に遭い、交通機関が止まってしまった場合、自力で家まで帰らなければならなくなります。そのためにも文庫本サイズの地図は常に携帯していると安心です。私はポケットサイズの地図を愛用していますが、これ一冊があればたとえカーナビや携帯の路線案内が使えない状況になっても、地図を頼りに何とか目的地まで到達できます。職場から自宅までのルートを地図上だけでもチェックしておくと良いでしょう。普段も地図を携帯していれば、電車遅延などの時に代替ルートをすぐに見つけることができます。
第5カ条 広域避難所、知っていますか?
 どの地区にも必ず「広域避難場所」が指定されており、飲み水などが確保されています。場所は市報に掲載されているほか、近くの電柱などにも記載されているので一度確認しておきましょう。また、普段から家族の間でも「防災会議」を開き、いざというときのことを話し合っておきます。はぐれたときの待ち合わせ場所、小さい子どもを保育園などに預けている場合、誰がお迎えに行くかといったシミュレーションも考えておきましょう。
第6ヶ条 いつものビルで階段を使ってみる
 たとえば高層ビルに勤めている場合。普段エレベーターばかり使っていると、災害が起きた際に地上へ避難するまでどれぐらい時間がかかるかわかりません。そこで、非常口・非常階段の場所を確認する意味からも、一度階段を使って降りてみることをお勧めします。また、出張の多い人はホテルに着いたらまず非常口・非常階段をチェックする習慣をつけましょう。飛行機に乗るときも同様です。非常口を確認したら、そこから自分の座席まで何列あるか確認しておきます。これは機内が停電になったとき、何列分歩けば非常口があるのか把握しておくためです。
第7カ条 重要な番号は紙に控えておく
 銀行、クレジットカード、保険証、免許証、パスポートなど、重要書類は家の中にたくさんあります。災害時だけでなく、普段の生活の中でも紛失したときに慌てないよう、コピーをとるか番号は控えておきましょう。私は手帳のアドレスブックの余白ページに詳細を控えています。暗証番号は危険なので書くことはしませんが、有効期限、名義人などは記録します。こうしておけばたとえば通信販売でクレジット決済するとき、お財布からカードをわざわざ出さなくても手帳を見るだけで番号と有効期限を知ることができ、時間の節約になります。
第8カ条 防犯グッズ、用意していますか?
 毎年9月になると、店頭に並ぶ防災グッズ。「準備しなければいけないなあ」と思いながら何もせず、ということはありませんか?この際、思い切って一式そろえてみましょう。「わざわざ買うほどでは・・・」と思う方は、家にあるデイパックでも十分です。中身については市町村のウェブサイトに防災関連のページがありますので、それを参考にすると良いでしょう。ちなみに我が家では毎年9月に防災グッズの中身を点検し、前年度に買った水やレトルト食品を新しいものと取り替えるようにしています。
第9カ条 多少の現金は家の中に常に用意
 最近は空き巣などの被害も多いので、あまり多くの現金を家の中に置くことははばかられます。しかしその一方で、いくらクレジット決済ができる世の中であっても手元に現金が全くないのは不安です。特に災害時には金融機関も混乱するため、3万円ぐらいの現金は用意しておくと安心です。お金はお札のほか、小銭でも用意しておきます。ある程度の現金を手元に常備しておけば、たとえば連休前に銀行へ行きそびれたときもあわてずに済みます。
第10カ条 収入源をどうするか
 
フリーランスの場合、「仕事ができないイコール無収入」ということになります。これは災害時だけでなく、自分の病気、親の介護などのケースも含まれます。このため、働けない状況になったときにどうするかを普段から考えておくことも必要です。配偶者の収入に頼るのか、実家に戻るのか、あるいはそうしたことができない場合に備えて貯金を増やすべきかなど、不測の事態に備えた計画作りが必要になります。金銭的な相談についてはファイナンシャル・プランナーにアドバイスを受けるのも一案です。
危機管理術、いかがでしたか?万が一の時に慌てないよう、日常生活の中でできることからやっていくと良いですね。
 
 

危機管理術、いかがでしたか?万が一の時に慌てないよう、日常生活の中でできることからやっていくと良いですね。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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