第3回 Borders 1
今週のテーマはBordersです。今週と次回の2回にわたって、このテーマを探求していきます。第1回目の今週は、Borderの概念についての話が中心です。やや学術的な部分もありますから、先にこの解説を呼んでから、レクチャーを聞くのも悪くは無いかも知れません。
Bordersという単語にはどれくらい馴染みがあるでしょうか? 一般的には「国境」という意味で使われることが多いですね。Border Patrolといえば、国境警備。Border Controlという言葉も使われます。しかし日本語でも選挙の時期になると、「当選と落選のボーダーライン」と言った風にも使われます。Borderとは、境界線のことです。
さて、このBorderという概念を扱う上で重要な点は2つあります。1つ目は、Borderが自分たち(Us)と他者(ThemもしくはOthers)を区切る境界線であるということ。例えば国境であれば、自分たちの国と、外国を区切りますね。「ここが自分の領域だ」ということは、「ここは自分の領域ではない」ということと等しいわけです。言い換えれば、他者の存在が無ければ、自己の存在も失われます。従って、私たちの人生における様々な境界線を知ることは、自己と他者の境界線を知ることであり、「自分とは何か」そして「自分の文化は何か」などの質問の答えが見えてくるものです。
2つ目はBorderが社会的に作られたものであること(Social Construction)。レクチャーの中ではこの点をスライドで解説していますが、ネイティブスピーカーの学生でも混乱する部分ですから、やや難しいかもしれませんね。Social Constructionとは、自然社会に存在するものではなく、人間が作り上げたものです。そしてそれがあたかも当たり前で自然のように感じられることさえあります。講義の中ではスポーツの例を扱っています。野球を考えてみましょう。ボールを投げて、それを木製のバットで打つという行為自体には、何の本質的な価値もありません。「できるだけ相手に打たれないように投球し、それを打ったら、打者はできるだけ遠くのベースまで行き、得点を稼ぐことをルールとする」という合意があるから成立しているだけであり、ヒットを打った後に1塁へ向うことが必然ではありません。3塁に先に行くことを拒むものは何も無いのです。従って、スポーツは社会が決めた規則に従って行われるSocial Constructionの1つです。今ではそれが当たり前で当然で、必然のように感じられますが、よく考えればそんなことはありません。
Bordersも同じです。人間が勝手に決めたものであり、そこにBordersが存在する本質的な必要性は無いのです。だからこそ、例えば日本と韓国や、アメリカとメキシコの間で頻繁に国境にまつわる問題が発生しているのです。社会がこの様な境界線を設定したと言うことは、そこに何らかの意味があるわけですから、その境界線を認識し、その意味を探求することは意味のあることです。実際にその意味を探求するのは次回の講義ですが、その土台となるのが今週のレクチャーです。
またBorderには国と国の間の境だけではなく、経済的なもの、文化的なもの、またユーロとドルといった通貨、若者と高齢者といった年齢など、様々な種類があることも覚えておく必要があります。
さて次回への宿題は至って簡単です。Googleでも何でもいいですから、近所の地図を見つけてください。「近所」が自分の市町村であっても、都道府県であっても、日本であっても構いません。自分の生活圏を含む地図を見つけ、そこにどのようなBordersが存在するか考えてみてください。最寄り駅には毎日会社に通うために行くのだけど、駅の反対側はなぜか遠く感じる、ということがあれば、その線路が1つのBordersですね。自分の住んでいる街であっても、「あのスーパーの近所には行ったことがない」ということがあれば、それも1つのBorderです。小中学生の子供がいれば、学区もBorderになるでしょう。自分の見つけた地図の中に存在するBordersを次回までに探してみてください。
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