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第283回 酔っぱらったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

酔っぱらったときに思い出す詩。

そんな詩があるのかと思うかもしれません。でも、あるんです!

散々飲んでしゃべって、酔い覚ましに夜更けの街を歩く。真夜中の風がやさしく頬を撫でる。

あの最高に気持ちの良い瞬間を描いた詩があるんです!酔っぱらった気分になって読んでみてください。

*****

April Midnight
Arthur Symons

Side by side through the streets at midnight,
Roaming together,
Through the tumultuous night of London,
In the miraculous April weather.

Roaming together under the gaslight,
Day’s work over,
How the Spring calls to us, here in the city,
Calls to the heart from the heart of a lover!

Cool to the wind blows, fresh in our faces,
Cleansing, entrancing,
After the heat and the fumes and the footlights,
Where you dance and I watch your dancing.

Good it is to be here together,
Good to be roaming,
Even in London, even at midnight,
Lover-like in a lover’s gloaming.

You the dancer and I the dreamer,
Children together,
Wandering lost in the night of London,
In the miraculous April weather.

*****

四月の夜更け
アーサー・シモンズ

ふたり並んで真夜中の通りを
ぶらぶら歩く
ロンドンの街 夜の喧騒の中を
魔法のような四月の空気を感じながら

ガス燈の下をふたりでそぞろ歩く
仕事は終わり
喧騒の街で 春が僕らに囁きかける
恋人同士のように心の深いところで言葉を交わす

ひんやりした風が僕らの頬を撫でる
清々しさに心奪われる夜の風
舞台には熱と煙とフットライトがあった
躍る君の姿を 僕は目に焼き付けた

今こうしてふたり一緒に
そぞろ歩くのはなんて気持ちがいいのだろう
真夜中のロンドンだとしても
夕暮れを過ごす恋人同士のように

君は躍る人 僕は夢見る人
ふたりとも子どもだ
夜のロンドンを彷徨う
魔法のような四月の空気を感じながら

*****

これは完全に酔っぱらったときの詩ですよねえ!しかも、暑くも寒くもない四月の夜更けというのが絶妙です。

Side by side through the streets at midnight,
Roaming together,
Through the tumultuous night of London,
In the miraculous April weather.
ふたり並んで真夜中の通りを
ぶらぶら歩く
ロンドンの街 夜の喧騒の中を
魔法のような四月の空気を感じながら

酔っぱらったふたりが、お互いにもたれかかるようにして夜更けの街をぶらぶら歩く。

この情景を想像するだけで、また一杯、気持ちよく飲めそうじゃないですか!

大都会の喧騒、とりとめもない話、行き先もなくそぞろ歩くふたりだけの時間、爽やかな四月の夜の空気。

これを「魔法」と呼ばずして何と呼べばいいのでしょうか!

Roaming together under the gaslight,
Day’s work over,
How the Spring calls to us, here in the city,
Calls to the heart from the heart of a lover!
ガス燈の下をふたりでそぞろ歩く
仕事は終わり
喧騒の街で 春が僕らに囁きかける
恋人同士のように心の深いところで言葉を交わす

春と言えば、野山に咲き誇る花や眩しい緑が、定番のモチーフです。しかし、ガス燈が灯る夜更けの喧騒の街にも、春はありますよね。

冬の凍える寒さもなく、夏のじとっとした暑さもない、爽やかな夜風が街に吹き抜ける春。

誰かの言葉が、じんわりと心に沁みるように、春の夜風が火照った身体と頭に吹き抜ける。

お酒を酌み交わしあれこれとしゃべりながら騒いだ、その熱を冷ましながら、思いを心に沈殿させていく時間。

お酒を飲んでいるときもずっと一緒にいたいと思ったけれど、こうして夜風に吹かれながらそぞろ歩く時間もずっと続いてほしいと思える。

これぞ、春だからこその魔法のような時間ですよね。

*****

今回の訳のポイント

酔い覚ましに春の夜風に吹かれながら街をそぞろ歩く。そんな魔法のような時間を描いているこの詩。最後のパートに、かっこいい要素が凝縮されています。

You the dancer and I the dreamer,
君は躍る人 僕は夢見る人

「君は躍る人 僕は夢見る人」というキラーフレーズが、最高ですよね。

直訳して「君は踊り子 僕は夢想家」としてしまうと、キャバレーの踊り子とうだつの上がらない詩人というだけの話になってしまいそうです。それを考えるためには、次の行がポイントになります。

Children together,
ふたりとも子どもだ

この「子ども」というのは、もちろん年齢的な意味ではなくて、子どものような無邪気さを持っているふたりだと捉えると自然ですよね。

けたけた笑いながら天真爛漫にはしゃぎ、屈託なくいつも自然体。そんなふたりがお酒を飲んで、ふらふらしながら互いの肩にもたれかかりながら、夜風に吹かれ歩いていく。

なので、dancer「踊る人」や dreamer「夢見る人」というように名詞を動詞的に訳すことで、かっこいい響きに!

Wandering lost in the night of London,
In the miraculous April weather.
夜のロンドンを彷徨う
魔法のような四月の空気を感じながら

そして、最後にも難関があります。miraculous「奇跡的な」と weather「天気」というありふれた単語をありふれた訳にしてしまうと、意味が伝わりにくくなってしまいます。

「奇跡的な四月の天気」と直訳すると、雨続きの時季に珍しく晴れ渡ったというような印象になってしまいます。

この詩が描いているのは、酔っぱらったふたりが夜更けの街を歩いていく姿。暑くもなく寒くもない絶妙な四月の夜。火照った身体を冷ますように吹く夜風。

頬で感じるのは、「魔法のような四月の空気」なのではないでしょうか!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END