第282回 春の海のような人に出会ったときに思い出す詩
春の海。
太陽も風も穏やかで、夏のような混雑や喧騒もまだない海。
春霞の中、さざめきながらキラキラと輝く海を見ていたら、同じくらいにキラキラした瞳をもった人のことを思い出しました。
そんな春の海と瞳の両方を描いた詩があるのですが、そのふたつにどんな関係があるのか、まあ読んでみてください。
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Gray Eyes
Sara Teasdale
It was April when you came
The first time to me,
And my first look in your eyes
Was like my first look at the sea.
We have been together
Four Aprils now
Watching for the green
On the swaying willow bough;
Yet whenever I turn
To your gray eyes over me,
It is as though I looked
For the first time at the sea.
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灰色の瞳
サラ・ティーズデイル
四月だったね 君が
はじめて目の前に現れたのは
君の瞳をのぞきこんだときの自分は
はじめて海を見たみたいだった
あれからずっと一緒だね
四回目の四月
萌える緑を見たね
柳の枝に揺れる緑の葉を
でも君のほうを振り返って
わたしを見つめる灰色の瞳を見るたび
それはまるではじめて
海を見たときみたいなんだよ
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四月がキーワードになっている詩なので、四月に紹介したかったというのがシンプルな理由でもあるのですが、はじめて出会ったときに感じた幸福を、何年経っても感じられるという、、、幸福感にあふれる詩!
It was April when you came
The first time to me,
And my first look in your eyes
Was like my first look at the sea.
四月だったね 君が
はじめて目の前に現れたのは
君の瞳をのぞきこんだときの自分は
はじめて海を見たみたいだった
世の中のはじまりの多くが四月なのと同じように、ふたりのはじまりも四月だというのが、初々しい感じがしますよね。
はじめて海を見た人のような目で、その人の瞳を見た。この感じ、目を閉じると思い出しませんか。キラキラした目で自分のことを見つめ返してくれた人のことを。
この人なら自分のことを分かってくれる、今の自分をもっといい方向に連れて行ってくれる、自分をもっと笑顔にしてくれる。瞬時にそう思わせてくれた人。まるで、防砂林を抜けて砂浜に出た途端に、目に飛び込んで来た春の海のように!
We have been together
Four Aprils now
Watching for the green
On the swaying willow bough;
あれからずっと一緒だね
四回目の四月
萌える緑を見たね
柳の枝に揺れる緑の葉を
春の海。その次は、春の生命力あふれる緑葉!
その瑞々しさは、何年経っても、はじめて出会ったころのように、自分の心に与えてくれる潤いのよう。
思い返してみれば、出会って間もないころ、まだ多くを話していないのに自分のことをこんなに分かってくれる!という驚きと喜びを感じて、心までキラキラしてきて、ワクワクさせてくれた。
そんな出会いから幾年かが過ぎて、秋や冬のような時期もあれば、春や夏のような時期もあり、アップダウンを経ながらも、顔を見ればいつも新しい気持ちにしてくれる。
もやもやドロドロどんよりしていた心に、一瞬で生命力を取り戻させ元気にしてくれる。そういう人、いますよね!
Yet whenever I turn
To your gray eyes over me,
It is as though I looked
For the first time at the sea.
でも君のほうを振り返って
わたしを見つめる灰色の瞳を見るたび
それはまるではじめて
海を見たときみたいなんだよ
振り返ると、そこには自分を見つめ返してくれる瞳があるというのは、何という幸せでしょうか!
何年経っても、何十年経っても、お互いの顔に皺が増えても、物忘れがひどくなっても、自分にとって特別なその人の姿を見るたびに、一瞬で何年も何十年もタイムスリップして、最初に感じた幸福を確かめられる。
そこには、穏やかでキラキラした世界があって、心の底から安心できるやさしさがある。
はぁ~、春の海の世界観、最高ですね!
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今回の訳のポイント
春の海をはじめて見たとき、そして、どこまでも心穏やかにしてくれる人と出会えた感動を描いたこの詩。
最大のポイントは、タイトルです。
Gray Eyes
灰色の瞳
英語の詩でときおり登場する、灰色の瞳。
灰色は瞳の色としては珍しく、それによって特別な魅力を持っている人を描写する際に使われることが多いです。知性が宿っているとか、穏やかであるとか、人間的深さを感じさせるだとか、色々に言われますが、とにかく自分の心を震わせてくれる存在ということですね。
春と言えば咲き誇る花々で、強烈な色彩と華やかさに元気づけられるのも良いのですが、春はやっぱり海もいいなあと思います。
静かにさざめく波や、水面で揺れるやさしいきらめきや、夢の世界に引き込むようなやわらかい霞。
その穏やかさで、自分を包んでくれる人のようで。