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第261回 変わり者に出会ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

変わり者。

考え方や行動がユニークで、他の人とは違う生き方を選択してきたがために、変わっていると言われたり誤解されたりしてしまう人がいます。

そんな人に出会ったときに思い出す詩があります。

緑まぶしい春の野山を描いた詩なのですが、変わり者とどんな関係があるのか、まあ読んでみてください。

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A little Madness in the Spring
Emily Dickinson

A little Madness in the Spring
Is wholesome even for the King,
But God be with the Clown –
Who ponders this tremendous scene –
This whole Experiment of Green –
As if it were his own!

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春狂
エミリー・ディキンソン

春は みんなを浮足立たせる
それは良いこと 王様にとってもね
でもね 神様は道化者の味方
道化者は考える この劇的な春の一幕を見て
この緑一色の大実験を目の当たりにして思う
自分はこの世界そのものなんだ!

*****

一行目の「春は みんなを浮足立たせる」という言葉から、花や緑に萌ゆる春の雰囲気に満ちていて、良いですよねえ。

A little Madness in the Spring
Is wholesome even for the King,
春は みんなを浮足立たせる
それは良いこと 王様にとってもね

冷たく暗い冬が終わり、緑まぶしい春が訪れると、誰もが心ウキウキ浮足立ってしまいます。その A little Madness「ウキウキ」にまかせて、何か新しいことを始めてみたりするわけですが、それは wholesome「健全で良い」こと。

誰もが浮足立ち、それは the King「王様」も例外ではありません。王様は、一国の主として、泰然自若として動揺してはいけない存在ですが、そんな王様もウキウキ胸を弾ませてしまうのが、the Spring「春」の力なのです。

But God be with the Clown –
Who ponders this tremendous scene –
でもね 神様は道化者の味方
道化者は考える この劇的な春の一幕を見て

ここで、the Clown「道化者」が登場します。

その立場は、王様とは正反対です。王様は、普段は沈着冷静であることを求められますが、春くらいはちょっと浮足立っても良いよと言われていました。では、普段から道化を演じている者はどうでしょうか。

道化者は、変わり者で笑い者で余所者扱いされがちかもしれません。子どものような純粋さを揶揄されたり、真っすぐ過ぎて周りに合わせることができなかったり、好奇心旺盛でいつもドタバタしていて落ち着きがなく見えたり。

そして、春を見て、ponders「考える」のが道化者です。沈着冷静で理路整然とした王様は浮足立ち、ドタバタ落ち着きのない道化者は思考する。これは、どういうことでしょうか。

This whole Experiment of Green –
As if it were his own!
この緑一色の大実験を目の当たりにして思う
自分はこの世界そのものなんだ!

静かな冬からしたら、狂ったように緑が萌え出でて花が咲き乱れる春。

既存の制度や枠組みからズレているがために、変わり者と呼ばれる道化者。

しかし、その純粋な瞳と心で、春の世界の息吹を受け止めて、まぶしい緑に歓喜し、咲き誇る花に感動するのは変わったことでしょうか。

いえ、むしろ、そうした躍動こそがこの世の営みなのです。それに気づくことができるのが、道化者。変わり者と呼ばれるほどに、他人とは違う経験をして、人生の苦い薬をたくさん飲みこみ、喜びの中に悲しみを見出し、悲しみの只中で笑おうとする道化者。

そんな道化者は、春にただ浮足立つだけでなく、その躍動を心の深いところで感じる心を持っている。

だからこそ、春が来たら、As if it were his own! 「自分はこの世界そのものなんだ!」というように、自分は決して変わり者で余所者なのではなく、この世界のど真ん中で生きているのだと、自信をもって言えるのではないかと思うんです。

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今回の訳のポイント

この詩の最大のポイントは、最終行にあります。

As if it were his own!
自分はこの世界そのものなんだ!

As if it were 「それはまるで~かのように」とあるので、現実ではないことを言っていて、ポイントはその次の his own です。

直訳すれば、his own は「彼自身のもの・自分自身のもの」という意味で、「まるで世界が自分のものであるかのように」と訳せますが、そうすると、「この世界は俺のものだ!」というような、所有欲に駆られた全世界の支配者的なトーンになってしまいます。

ここでは、生命が躍動しきらめいている緑あふれる自然を前にして、子どものような純粋な心で感動する道化者の姿を描いています。

それは、決して変わり者ではありません。その身に宿る生命力と躍動感は、自分が生きる自然や世界と同じなのです。

だから、変わり者と言われることも気にせずに、「自分は世界のど真ん中で躍動する存在なのだから、思いきり春に浮足立ってみよう!」と考えていいんだと思います!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END