ENGLISH LEARNING

第260回 外国語を習おうと思ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

フランス語、イタリア語、スペイン語、ポーランド語、チェコ語、アラビア語、タイ語、インドネシア語、韓国語。

今までに自分が勉強したことのある外国語を挙げてみました。英語をはじめ、どの言語も独学したのですが、自分なりの勉強法や習得法が見えてきてからは、何かきっかけがあるたびに新しい外国語にチャレンジしていました。

簡単にでも話せるようになるためにどのように勉強したのか、それをお話する前に、詩を紹介しなくてはいけませんね!

「悲しみ」という題名の詩なのですが、なぜ外国語の勉強と結びつくのか、まあ読んでみてください。

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Sadness
Mary Elizabeth Coleridge

I think that Sadness is an idiot born;
She has no eyes to see the sun in heaven,
No ears to hear the music of the earth,
No voice to utter forth her own desire.

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悲しみ
メアリー・エリザベス・コールリッジ

悲しみってとことんお馬鹿さんなんだと思います
大空のおひさまを見る目もなければ
大地の奏でる音楽を聴く耳もないし
自分がしたいことも声に出せないから

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この詩の何が良いって、冒頭が I think that という、中学英語かいっ!というくらいの素朴な英語なところなんです。

I think that Sadness is an idiot born;
悲しみってとことんお馬鹿さんなんだと思います

I think that 「~だと思います」って、詩ではなかなか見ないのですが、新しい外国語を身に着けようと思ったときに便利なのが、各国語における I think that なんです!

とりあえず I think that と言えるようにしておけば、口をついて出る言い始めのひと言フレーズとして重宝するし、手っ取り早く「話せる風」になり、なおかつ時間稼ぎにもなるので本当に便利なんです。

実際に、新しく外国語を身に着けようと思ったときは、文法と単語と、自分が言いたいことを表すフレーズの3点を抑え、学習書からフレーズをせっせと抜き出して、そのフレーズを使って自分自身の状況や経験に置き換えて作った文をストックしていき、東京駅で道に迷っている観光客を手伝ってあげながら練習していました。最初は英語で話しかけて、例えば、イタリアから来たと言われればイタリア語に切り替えて話す感じです。

自分が住んでいるところや、その言語を勉強している理由、その国に行ったことがあるか、その国の好きなミュージシャンは誰で好きな曲はどれか、そんなことを抑えておくだけで、道案内をして目的の場所にたどり着くまでの10分間は、会話を盛り上げられる。そんなときに、とりあえずそれぞれの言語で I think that と言えるだけで、かなりスムーズになるんです。

She has no eyes to see the sun in heaven,
No ears to hear the music of the earth,
No voice to utter forth her own desire.
大空のおひさまを見る目もなければ
大地の奏でる音楽を聴く耳もないし
自分がしたいことも声に出せないから

詩のメッセージそのものは、悲しみに暮れる人の心に響きまくるやさしさに溢れています。

辛くて苦しい時って、そのことに囚われてしまってどんどん世界が狭くなっていってしまうもので、周りを見回す余裕がなくなってしまいますよね。

外に出かけようという気持ちにもならず、風や鳥など自然の奏でる音に耳を傾ける余裕もなく、好きな音楽を聴こうという気持ちにもならず、しかも自分の苦しい気持ちを表現する言葉が見つからなくて、鬱々悶々とした時間ばかりを過ごしてしまう。何かをやってみたいという願望や計画など、未来をイメージすることもできなくなってしまう。これは、悲しみのどん底を味わった人には、ものすごくイメージできる状況なのではないでしょうか。

詩を読むことは、ちょっと変わった友だちに会って話すことみたいだと信じているのですが、この詩も「悲しみに負けちゃダメだぞ」という思いを、押しつけがましくなく、「悲しいって嫌だよね」とただ共感してくれる感じが、友だち感があって大好きなんです。

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今回の訳のポイント

この詩のポイントは、I think that を含む冒頭の一行です。

I think that Sadness is an idiot born;
悲しみってとことんお馬鹿さんなんだと思います

最大のポイントとなるのは idiot で、「大馬鹿者」というトーンで、映画やドラマの中で発せられるような汚い罵り言葉に訳すことはできると思います。

けれども、この詩全体に漂う雰囲気は、やんちゃな若者の罵り合いではなくて、もっとやさしくてやわらかいイメージ。

そうすると、「お馬鹿さん」ぐらいのやわらかさがある方がいいのではないかと!そして、I think that は凝ったことをせずに、中学英語のような訳の「~だと思います」とした方が素朴な味わいが出るのではないかと思います!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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