第255回 子どもの写真を撮っているときに思い出す詩
写真は写真でも、子どもの写真。
それをテーマにする理由は、実は、私はフォトグラファーとしても活動をしていて、ファミリーフォトを撮ることが多いからなんです。
地べたに這いつくばってファインダーをのぞいて、小さな子どもたちの写真を撮っていたら、ある詩を思い出しました。
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Aunties Skirts
Robert Louis Stevenson
Whenever Auntie moves around,
Her dresses make a curious sound,
They trail behind her up the floor,
And trundle after through the door.
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おばさんのスカート
ロバート・ルイス・スティーブンソン
おばさんが歩き回ると
スカートのすそから面白い音がする
床を引きずられていって
ザザーッとドアを入っていくよ
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スカートのすそという、床に一番近いところに目線が行くのが、子ども的な視点でいいですよね。
Whenever Auntie moves around,
Her dresses make a curious sound,
おばさんが歩き回ると
スカートのすそから面白い音がする
スカートのすそに着目した上で描いているのは、その色や柄ではなく、音!
五感の中でも聴覚に訴えていて、確かに、子どもって音に敏感だなと思います。子どもにとっては、「犬」でなく「ワンワン」で、「食べる」でなく「モグモグ」ですしね!
They trail behind her up the floor,
And trundle after through the door.
床を引きずられていって
ザザーッとドアを入っていくよ
スカートのすそは、「ヒラリ」ではなく、 trundle「ザザーッ」と引きずられていく。こうしてオノマトペが使われることで、音でスカートが描写されています。
おばさんがただ部屋に入っていくだけの話なんですが、スカートのすそや、それが引きずられる音といった、床に一番近いところの目線で語られることで、思いっきり子ども目線になっていて、ニヤニヤしてしまいます。
昔読んだ洋書の子育ての本に「いいからそのケツを床につけろ!」という感じのタイトルの章があったのを思い出します。
それは、「突っ立ってないで、まずは子どもと一緒になって床に這いつくばってみろ。話はそれからだ」ということで、つまり、大人の世界と子どもの世界に分かれて対峙するのでなく、まずは子どもの世界に大人が入って、子どものルールで一緒に遊ぶこと。それによって、子どもは大人を物理的にも心理的にも近くに感じ、人として信頼するのだと。
自分がファミリーフォトを撮っているときって、まさにそれだなと思います。
どっちが子どもか分からないくらいに床や地面を転げ回っていると、まるで友だちか弟分みたいに扱ってくれて、子どもたちのものすごく自然な表情を撮ることができるんです。
それは別に、子育て本を読んだからとか、自然な写真を撮りたいからということでなく、単純に、キャッキャとはしゃぎ回る子どもたちを見ているだけじゃ、人として距離を感じてしまってつまらなく、お友だちか弟分になって一緒に遊んでほしいからなんです。
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今回の訳のポイント
大人が書いた子ども目線の詩。ひとつ、英語の文法的な面で大事なポイントがあります。
Whenever Auntie moves around,
Her dresses make a curious sound,
おばさんが歩き回ると
スカートのすそから面白い音がする
Her dress ではなく Her dresses という複数形になっているのが、ものすごく重要です。もし Her dress と言ってしまうと、ある特定のひとつのスカートだけが面白い音を立てるということになってしまいます。
しかし、ここでは、Her dresses と複数形になっています。そうすると、「日本語には複数形がないから、訳せないじゃん!」という文句が聞こえてきそうです。
しかし!
英語の複数形は、単に「たくさん」を表すだけでなく、それが特定のものでなく色々なものに当てはまることも表します。だいたいのものはいつもこうなる、という法則性に近い意味になるのがポイントです。つまり、スカートというものは、どのスカートであってもいつも面白い音を立てるということになります。
では、法則性を日本語で表す言葉は何かと言うと、「~すると…する」というときの「と」になります。「春が近づくと暖かくなる」とか「年を取ると忘れっぽくなる」の「と」ですね。
というわけで、複数形だからと言って、「スカートたち」のように無理やり名詞を複数形にするわけではなく、法則性を表すのだから「歩き回ると」のように接続詞を考えればいいとなります。
たった4行の詩なのに、英語と日本語の両方について、色々と考えさせられますね。
ただ、写真を撮っているときは、そんなことなんて考える暇もなく、はしゃぎ回る子どもたちと一緒になって這いつくばって転げ回っているのですが、、、