第253回 イラっとしたときに思い出す詩
うまくいかないことがあると、イラっとしたり落ちこんだりしてしまうのが、人の常。
その感情の起伏が激しいのが、小さな子ども。
それをありありと描いた詩があったことを思い出しました。3歳児になったつもりで読んでみてください。
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Self-Control
Polly Chase Boyden
My dolly would not play with me.
She simply stared
Her silly stare.
It made me wild
To pull her hair.
I kissed her very quietly
And walked outdoors and kicked a tree.
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自制心
ポリー・チェイス・ボイデン
お人形さんがいっしょにあそんでくれないの
こっち見てるだけなの
ぼーっと見てるだけなの
すごく嫌だったから
髪の毛引っ張っちゃったの
チュッてして
それから外へ行って木をキックしたの
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うまくいかないことは、程度の大小はあれ、誰にもあります。
その都度、イラっとしたり落ちこんだりするわけですが、グッとこらえてがんばるのが分別ある大人で、子どもはコントロールが効かずに泣いたりわめいたり暴れたりします。
My dolly would not play with me.
She simply stared
Her silly stare.
お人形さんがいっしょにあそんでくれないの
こっち見てるだけなの
ぼーっと見てるだけなの
子どもらしいのが「お人形さんがあそんでくれない」というような、「モノが~してくれない」という考え方ですよね。モノには意思がないのですが、子どもからすると「お人形さんがあそんでくれない」という言い方になるのが、まずキュンキュンします。
英語には、would not 「どうしても~しようとしない」という表現があり、文字通り、「お人形さんがあそんでくれない」の世界観そのものになります。
「こっち見てるだけ」「ぼーっと見てるだけ」という文句をお人形さんに対して言うのは、かなり理不尽ではあるのですが、それが子どもの世界なので良しとしましょう!
It made me wild
To pull her hair.
すごく嫌だったから
髪の毛引っ張っちゃったの
しかし、子どもは心が感じたことを表現する方法を多く持たないので、直接的な武力行使に出るんですよねえ。英語の wild という単語が、感情の激しさを物語ります。泣くかわめくか暴れるかの3択しかないので、必然的に wild な状況にはならざるを得ないのが、子どもの辛いところです。
子ども本人も、お人形をぶん投げたり壊したりしたいわけではないのに、そうするしかなかったわけなので、大人としては、ぶん投げたことを叱るのもそうですが、それ以上に、「うまくいかなくて嫌だったねえ」と、子どもが感じた気持ちを認めてあげることが、大事ですよね。
I kissed her very quietly
And walked outdoors and kicked a tree.
チュッてして
それから外へ行って木をキックしたの
というわけで、「お人形さんは悪くない」と認めたことを示すために「チュッとして」から、抑えきれない感情は、「木をキック」して発散するという結末に!
子どものためには、キックできる大きな木が各家庭に一本必要かもしれませんね。
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今回の訳のポイント
自制心の効かない子どもを描いたこの詩。最後の2行がポイントです。
I kissed her very quietly
And walked outdoors and kicked a tree.
チュッてして
それから外へ行って木をキックしたの
気にくわず髪を引っ張って乱暴したものの、チュッとして、外へ行って憂さ晴らしをする。
これだけを見ると、救いようのないモラハラ男の行状そのものですよねえ。乱暴はするんだけど、すぐに謝って、憂さ晴らしは外でしてくる、という流れがダメ男の振る舞いですよねえ。
イギリスの名詩人のシェリーにも、ダメ男ぶりが遺憾なく発揮された詩がありましたが、つまり、精神レベルが子どものままで、大人になりきれていないダメ男ということなんですかね。
そんなときの kiss の日本語訳は、「キス」でもないし、ロマンチックな詩で定番の「口づけ」でもなく、「チュッ」だろうと思うのですが、どうでしょう!