ENGLISH LEARNING

第253回 イラっとしたときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

うまくいかないことがあると、イラっとしたり落ちこんだりしてしまうのが、人の常。

その感情の起伏が激しいのが、小さな子ども。

それをありありと描いた詩があったことを思い出しました。3歳児になったつもりで読んでみてください。

*****

Self-Control
Polly Chase Boyden

My dolly would not play with me.
She simply stared
Her silly stare.
It made me wild
To pull her hair.

I kissed her very quietly
And walked outdoors and kicked a tree.

*****

自制心
ポリー・チェイス・ボイデン

お人形さんがいっしょにあそんでくれないの
こっち見てるだけなの
ぼーっと見てるだけなの
すごく嫌だったから
髪の毛引っ張っちゃったの

チュッてして
それから外へ行って木をキックしたの

*****

うまくいかないことは、程度の大小はあれ、誰にもあります。

その都度、イラっとしたり落ちこんだりするわけですが、グッとこらえてがんばるのが分別ある大人で、子どもはコントロールが効かずに泣いたりわめいたり暴れたりします。

My dolly would not play with me.
She simply stared
Her silly stare.
お人形さんがいっしょにあそんでくれないの
こっち見てるだけなの
ぼーっと見てるだけなの

子どもらしいのが「お人形さんがあそんでくれない」というような、「モノが~してくれない」という考え方ですよね。モノには意思がないのですが、子どもからすると「お人形さんがあそんでくれない」という言い方になるのが、まずキュンキュンします。

英語には、would not 「どうしても~しようとしない」という表現があり、文字通り、「お人形さんがあそんでくれない」の世界観そのものになります。

「こっち見てるだけ」「ぼーっと見てるだけ」という文句をお人形さんに対して言うのは、かなり理不尽ではあるのですが、それが子どもの世界なので良しとしましょう!

It made me wild
To pull her hair.
すごく嫌だったから
髪の毛引っ張っちゃったの

しかし、子どもは心が感じたことを表現する方法を多く持たないので、直接的な武力行使に出るんですよねえ。英語の wild という単語が、感情の激しさを物語ります。泣くかわめくか暴れるかの3択しかないので、必然的に wild な状況にはならざるを得ないのが、子どもの辛いところです。

子ども本人も、お人形をぶん投げたり壊したりしたいわけではないのに、そうするしかなかったわけなので、大人としては、ぶん投げたことを叱るのもそうですが、それ以上に、「うまくいかなくて嫌だったねえ」と、子どもが感じた気持ちを認めてあげることが、大事ですよね。

I kissed her very quietly
And walked outdoors and kicked a tree.
チュッてして
それから外へ行って木をキックしたの

というわけで、「お人形さんは悪くない」と認めたことを示すために「チュッとして」から、抑えきれない感情は、「木をキック」して発散するという結末に!

子どものためには、キックできる大きな木が各家庭に一本必要かもしれませんね。

*****

今回の訳のポイント

自制心の効かない子どもを描いたこの詩。最後の2行がポイントです。

I kissed her very quietly
And walked outdoors and kicked a tree.
チュッてして
それから外へ行って木をキックしたの

気にくわず髪を引っ張って乱暴したものの、チュッとして、外へ行って憂さ晴らしをする。

これだけを見ると、救いようのないモラハラ男の行状そのものですよねえ。乱暴はするんだけど、すぐに謝って、憂さ晴らしは外でしてくる、という流れがダメ男の振る舞いですよねえ。

イギリスの名詩人のシェリーにも、ダメ男ぶりが遺憾なく発揮された詩がありましたが、つまり、精神レベルが子どものままで、大人になりきれていないダメ男ということなんですかね。

そんなときの kiss の日本語訳は、「キス」でもないし、ロマンチックな詩で定番の「口づけ」でもなく、「チュッ」だろうと思うのですが、どうでしょう!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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