第250回 友だちに悩み相談をするときに思い出す詩
悩み相談。
将来への不安だったり人間関係の悩みだったり、わたしたちは様々なことを友だちに相談します。
不安や悩みを解消してあげることは非常に難しいですが、詩なら4行で済みます!
本当に4行で済むのかどうか、まあ読んでみてください。
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Fragment: Love The Universe To-Day
Percy Bysshe Shelley
And who feels discord now or sorrow?
Love is the universe to-day—
These are the slaves of dim to-morrow,
Darkening Life’s labyrinthine way.
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愛こそ今の世界のすべて
パーシー・ビッシュ・シェリー
それにしても 争いも悲しみも 今 誰が感じるだろう
愛こそ今の世界のすべて
争いも悲しみも おぼろげな未来の奴隷だ
人生の迷路を もっと暗くするだけだ
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さすが、詩だからこその切れ味ですね。断言調なのが、しびれます。
And who feels discord now or sorrow?
それにしても 争いも悲しみも 今 誰が感じるだろう
「誰が感じるだろう」というのは、「誰も感じるはずはない」という反語で、詩でよく使われるテクニックです。争いも悲しみも感じなくていいよと高らかに宣言して、詩が始まります。
Love is the universe to-day—
愛こそ今の世界のすべて
愛こそすべて、というストレートなメッセージが青臭さ全開!
でも、これだけあっけらかんと言われると、その潔さを認めなくてはいけない気がしてきます。
なぜ愛こそすべてなのか。このストレートなメッセージにはちゃんと理由があるというのが、次を読むと分かります。
These are the slaves of dim to-morrow,
Darkening Life’s labyrinthine way.
争いも悲しみも おぼろげな未来の奴隷だ
人生の迷路を もっと暗くするだけだ
未来は、眼前にあるものではなく不確実なものです。そんな不確実な見通しに左右されて、争ったり悲しんだりするなと。ただでさえ入り組んだ人生という迷路の道が、もっと暗く見通しが利かなくなってしまうのだと。
不確かな未来というご主人様の言いなりになっている奴隷。
そう言われると、争いも悲しみも、かなり無駄で馬鹿げていると思えてきます。
この詩は、1819年に書かれた詩で、およそ200年も前の言葉ではあるわけですが、おぼろげで不確かなことを基準にして争ったり悲しんだりしている暇があったら、今ここでがんばれというメッセージは、普遍的ですよね。
今ここでがんばれというパワフルなメッセージを伝えるためには、「愛こそ今の世界のすべて」と言うくらいの断言調と、4行と言う簡潔さがふさわしいわけです。
考えてみてください。将来への不安を友だちに相談したときに、「これこれこうだけど、ああでこうだから、ああしてこうして」という風にくどくど説かれるよりも、「大丈夫だよ!まずやってみなよ!」という風に、背中を押してくれた方が、不安は解消されますよね。
詩は友だちの言葉、と常々思っているのですが、この4行もまさに友だちの言葉だなあと思います。
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今回の訳のポイント
将来への不安という人間の悩みに、4行で簡潔に回答してくれるこの詩。最大のポイントは、冒頭の And です。
And who feels discord now or sorrow?
それにしても 争いも悲しみも 今 誰が感じるだろう
何の前提もなく、いきなり And と言うのは、普通に考えれば、おかしな言い方です。And は、訳語としては「そして」とか「と」とか「とか」など並列や追加を意味するわけで、いきなり And と言われても、何と並列しているのか分からないからです。
では、いきなり And と言うのは、なぜでしょうか。それは、人間誰しも不安を感じ、日々争いや悲しみに悩まされ、将来への不安についてさんざん考え、さんざん話し、さんざん相談し、さんざん相談されているからです。
そうやって将来への不安に誰もがさんざん悩まされているというのは、言われなくても皆分かっていて、つまり、あれこれ言わなくても分かる前提になっているのです。
「久しぶりにご飯しない?」と友だちが声をかけてきたら、積もる話があるわけで、腰を下ろし注文をして、開口一番「でさあ~」と言われただけで、何か相談事があるのだなと察するし、「それにしてもさあ~」と言われたら、何か断定的なご意見が飛んでくるなと察する。
そうやって、脈略の無い冒頭の And 的なものを、わたしたちは瞬時に理解するのです。
そう、詩は、友だちの言葉なのです!