ENGLISH LEARNING

第249回 かるたをしているときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

かるた、凧揚げ、羽根つき。

自分が子どものころは、こうした遊びのすべてを、家族や親せきと楽しむのがお正月でした。

「かるた」って、 carta というポルトガル語が日本語になったものだし、同じラテン語の charta を起源とするのが、英語の card だもんなあと考えていたら、トランプカードの詩があったことを思い出しました。

かるたから連想する詩なんてあるのか。そんな疑問は置いておき、まあ読んでみてください。

******

A House Of Cards
Christina Rossetti

A house of cards
Is neat and small:
Shake the table,
It must fall.
Find the Court cards
One by one;
Raise it, roof it, –
Now it’s done: –
Shake the table!
That’s the fun.

*****

ハウス・オブ・カード
クリスティーナ・ロセッティ

カードを積み上げた家
小さいけどきちっとできたよ
テーブルを揺らしてごらん
絶対倒れるから
絵札を探して
一枚一枚
積み上げて屋根にして
ほら!できた!
テーブルを揺らしてごらん!
楽しいね

*****

カードゲームとして遊ぶのではなく、カードを積み上げて家の形に組み立てる方の遊びだったとは!

でも、この詩を読むたびに、人としての挑戦や成長について考えてしまうんです。

A house of cards
Is neat and small:
Shake the table,
It must fall.
カードを積み上げた家
小さいけどきちっとできたよ
テーブルを揺らしてごらん
絶対倒れるから

カードを積み上げていって、合掌造りの家のような形にするわけですが、途中で崩れてしまったりするのが常です。

何とかがんばって完成させたとしても、テーブルを揺らしたり少しでも動かすと、やっぱり崩れてしまいます。小さい弟や妹がテーブルを揺らしたりして崩してしまい、喧嘩になるというのは、どんな兄弟も経験するものではないでしょうか。

小さい子どもって、作る工程よりも、バサバサと壊すことの方が楽しいんですよね。作った大人からすると、「あ~!もう!せっかく作ったのに!」となるのですが、子どもとしては、アクションがより大きい崩れる瞬間の方に心惹かれてしまい、作っては壊し、また作っては壊しというループで、延々キャッキャッと笑うという展開に。

Raise it, roof it, –
Now it’s done: –
Shake the table!
That’s the fun.
積み上げて屋根にして
ほら!できた!
テーブルを揺らしてごらん!
楽しいね

せっかく完成させたのに、すぐテーブルを揺らして崩してしまうという、このノリが最高ですよね。これが、挑戦→失敗→成長という人生のメタファーに思えるんです。

大人になると、失敗したくないという意地が強くなってしまうのですが、本来、成長には失敗はつきものなはずです。失敗しないようにという意識が強すぎると、人間は挑戦しようと思えなくなってしまいます。しかし、実際には失敗するくらいの挑戦をしてはじめて、自分のキャパシティを広げることができる、つまり成長できるはずなんです。

英語など何か新しい言語やスキルを身に着けるときは、ひとつひとつのステップを踏んで学んでいきはしますが、それだけでは本当の力になりません。「習うより慣れろ」と言われるように、実地で実践して間違えてみてはじめて、どうしたらいいのかというのが腑に落ちて、一気に技術が身に付いたり、一層がんばれたりするものです。

この詩がグッとくるのは、「ほら!できた!」と完成したすぐあとに、「テーブルを揺らしてごらん!」と言って壊し、それを「楽しいね」と言うところです。

大人になると、作り上げたり成し遂げたりしたという勲章にしがみつきがちですが、敢えてそれを壊して新しく挑戦することを「楽しい」と思えると、ますます成長できるものだと思います。

*****

今回の訳のポイント

この詩の最大の難関、というか、どうしても克服できない日本語と英語の違いに起因する大問題があります。しかも、それは一番大事なタイトルにあります。

A House Of Cards
ハウス・オブ・カード

まず、「ハウス・オブ・カード」のもともとの英語は、 A House of Cards なわけで、訳された「ハウス・オブ・カード」には、冠詞の A もなければ、Cards の 複数形の s もないじゃないか!という大問題があります。

でも、想像してみてください。ちゃんと冠詞の A や、複数形の s を含めると、「ア・ハウス・オブ・カーズ」ってなんだか長くて締まりがないですよね。しかも、「カーズ」という日本語の表記だと、cars/cards どちらの可能性も発生してしまいます。 cars で車がいっぱいあるということなのか、 cards でカードがいっぱいあるのか違いも分からなくなるという、根本的な問題になってしまいます。

もう一つの問題は、英語の A house of cards というフレーズには複数の意味があるという点です。単に遊びとしての「カードで組み立てた家」というだけでなく、崩れやすいという点に由来して、不安定に組み立てられた建物、ひいては「何かあればすぐ破綻してしまいそうな計画」という意味が含まれています。

崩れやすい建物と計画。フレーズを見ただけでこの2つの意味を同時に感じ取ることができるのが、英語の A house of cards というフレーズなわけです。

そのことを説明的に訳してしまってはタイトルにならないので、伝家の宝刀、カタカナにするという解決策で勘弁してください!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END