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第246回 プレゼントを選んでいるときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

イルミネーションが灯り、人々が街に繰り出してくると、年の瀬が迫っていることを実感します。

人であふれる街でみんながしていることと言えば、お買い物。

贈り物だったりお土産だったり、プレゼントを選んでいると思い出す詩があります。

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Red Slippers
Amy Lowell

Red slippers in a shop-window, and outside in the street, flaws of grey, windy sleet!

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赤い靴
エイミー・ロウエル

ショーウィンドウに赤い靴 外の通りには灰色のシミのようなみぞれが舞う

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ショーウィンドウを眺めてワクワクしている詩かと思いきや、みぞれが舞う寒い日の光景に様変わりするという展開。

「何だかよくわからないけど雰囲気がある」と感じられる理由は何だろうと思いました。

Red slippers in a shop-window,
ショーウィンドウに赤い靴 

まずは、色彩!

Red「赤」という、鮮やかな色が冒頭に来るのが、何よりインパクトがありますよね。

and outside in the street, flaws of grey,
外の通りには灰色のシミのような

すると、出ました!色彩とロケーションのコントラスト!

ショーウィンドウについてあれこれ描写するかと思いきや、あっという間に、表の通りへ!そして、鮮やかな赤と対照をなす灰色!言葉数は少なくても、これだけで、雰囲気は勝手にイメージできますよね。

華やかで暖かい店内のショーウィンドウと、表の冬の日のビル街の冷たくどんよりした景色。重たい雲や雪の降る様子を想像してしまいますね。

これは、少ない言葉数で情景描写をする俳句と似ています。人が頭の中に持っている典型的なイメージの記憶によって、少ない言葉の行間を埋めて、全体の情景をイメージさせるわけです。

これって、AIによる画像生成などとも似ているなと思います。キーワードを与えると、それらを統合して、最もありうるイメージを生成して提示する。細部のイメージは人によって異なるように、生成するごとに完成イメージは異なるわけですが、キーワードによって思い起こされる大まかな雰囲気の方向性は同じである、というプロセスそのものと言えます。

これは、この詩を読んでいるときに、私たち皆の頭の中で起きていることそのものですね。

windy sleet!
みぞれが舞う

そして最後は、予想通り、みぞれが舞っていました!

手前で、 flaws of grey 「灰色のシミのような」と言われたときに、何となく灰色のビル群や重たい冬の曇り空や、雪などのイメージが思い浮かんでいるはずなので、話が早いですね。

これを読んで頭に浮かぶ、最大公約数的なイメージを勝手にまとめると、こんな感じでしょうか。映画のワンシーンを思い浮かべて考えてみましょう。

ホリデーシーズンでにぎわうお店。デコレーションやイルミネーションで飾られたショーウィンドウ。そこでピカピカの輝きを放つ赤い靴。外の大通りは、曇り空と都会のビル群で全体に灰色。その光景の中、シミのように風に舞うみぞれ。

映像的なイメージはこんな感じですが、深い読み方をすれば、ホリデーシーズンのお店や都会の高層ビル群が象徴する富や豊かさに対して、そのすぐ外は寒く灰色に煙っているという社会の暗部を思い起こさせる、というようにも考えられるわけです。

余白をこんなにも想像力で埋めることができるという人間のイメージの力、おそるべし!

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今回の訳のポイント

映画のワンシーンのような豊かなイメージを喚起してくれるこの詩。実は、この詩は、この一行を導入にして長く続く散文詩で、後ろに状況をもっと説明する長い文章のような詩なんです。しかも、この詩は Towns in Colour「街の色彩」というタイトルのついた3つの詩のセットのうちの一つ目なんです。

「な~んだ、たった一行の詩ではないんかい!」というのは尤もとして、詩の世界を強烈にイメージさせるために効果的なのが、タイトルかつ冒頭のひと言目です。

Red Slippers
赤い靴

「赤い靴」って!いやいや、Slippers とあるので、パンプスやスリップオンじゃないか!「赤いパンプス」と言え!ということになりますよねえ。

確かに、英語での Slippers は、日本語でイメージする室内用のスリッパではなく、紐のない履き口の広い靴のことを指します。

でも、タイトルが「赤いパンプス」じゃ、、、

考えてみてください。メルヘンチックなホリデーシーズンのショーウィンドウにある赤い靴といえば、言うまでもなく、パンプス型の靴だろうと。これもイメージ力に任せてしまっていいじゃないかと。

だから、パンプスと言う必要はない!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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