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第244回 偶然が重なったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

偶然は重なるもの。

乗り遅れそうだった電車がたまたま遅れていて、無事に乗れたと思ったら、古い友人がその電車に乗ってきて、さらにびっくり。そんな偶然が重なったときに、ある詩を思い出しました。

雪とカラスが登場するのですが、どんな偶然が発生するのか。まあ読んでみてください。

*****

Dust of Snow
Robert Frost

The way a crow
Shook down on me
The dust of snow
From a hemlock tree
Has given my heart
A change of mood
And saved some part
Of a day I had rued.

*****

雪をバサッと
ロバート・フロスト

カラスが
僕に落としていった
雪をバサッと
栂の木から
それで気分が
変わった
心が晴れた
モヤモヤした一日が

*****

歩いていたら、木の上のカラスがちょうど飛び立って、そのせいでバサッと雪が自分に落ちてきた。その偶然によって、心のモヤモヤが晴れた。

本当に小さな偶然でしかない出来事なのですが、そのおかげで気分が良くなったという、爽やかな詩ですよね。

The way a crow
Shook down on me
The dust of snow
From a hemlock tree
カラスが
僕に落としていった
雪をバサッと
栂の木から

鳥という存在は、様々な偶然を巻き起こします。

自分は、昔、好きな子とイチャイチャ歩いていたら、電線にとまっていた鳥の糞がヒューっと落ちてきて、偶然にも自分の肩にベチャッとなって、ふたりして笑い転げた記憶があります。

何かに導かれるように鳥の糞が肩に落ちてきたり、雪がバサッと自分に落ちてきたり。大きく言えば、自然は人間の都合などお構いなしだという事実が、冷え渡った冬の寒い日の空気のように、何だかとても爽やかに感じられます。

英語としては、「カラスが飛び立ったりして雪を揺り動かして落としていった」ということを、The way a crow shook down「カラスが~を揺り落していった様子」と言っているのですが、これを冗長さを避けつつ、しかも滑稽な感じに訳すには、「バサッと」とするのが良さそうです。さすが、オノマトペ!最高!

Has given my heart
A change of mood
And saved some part
Of a day I had rued.
それで気分が
変わった
心が晴れた
モヤモヤした一日が

モヤモヤしていた一日。突然、バサッと雪が落ちてきた。それで気分が晴れた。落ちてくる雪は、予想もできないし避けることもできない。人間のコントロールを超えた自然の営みには、人間はお手上げで、むしろ潔さを感じさせます。

モヤモヤと悩みに囚われているときに、ちょっとした偶然によって、その思考が途切れて、ふとすがすがしい気分になるという経験は、生活のあちこちにあります。友人にメッセージしようとしたら、偶然向こうからもメッセージが来てクスッとしたり、丸めた紙をくずかごに投げたら見事に入って、ひとりでニヤニヤしたり。

人生は様々な偶然に満ちています。

電車で古い友人に会うというような小さな偶然から、キャリアを左右するような大きな偶然まで、ときに偶然の力によって、私たちは人生の変化を経験します。

落ちてきた雪が直撃したというマイナスの偶然も、気分一新するきっかけにもなると思えば、どんな偶然が自分に訪れるだろうかとワクワクしてきませんか。

*****

今回の訳のポイント

この詩の恐ろしいところは、切れ目がなく、全体で一つの文であるということ!しかも、行末はちゃんと韻を踏んでいるという凄まじさ!

これを行を分けるのでなく、一つの文として日本語に訳すと次のようになります。

The way a crow shook down on me the dust of snow from a hemlock tree has given my heart a change of mood and saved some part of a day I had rued.
「カラスが栂の木から雪をバサッと僕に落としていったことで、僕の気持ちに変化があり、くよくよしていた一日がちょっと気分的に良くなった。」

う~ん、これでは、ただのつぶやきでしかないですよね。英語では「カラスが、落とした、僕に、雪を」というように、読むごとに新しい事実が明らかになっていくのですが、日本語で一つの文として訳すと、その感じがないですよね。

英語では、主語+動詞+目的語の順で言葉が並ぶので、自然に「何を?」「それで?」という風に謎を解きながら読み進められます。だからこそ、切れ目のない一つの文を、行に分けるだけで詩としての情緒が宿るという、なかなかズルい仕組みを持っているのです。それで、「カラスが、落とした」から「モヤモヤした一日を」までの、偶然がもたらした変化を劇的に描くことができるのです。

今度からは、自分が経験した偶然を、日本語でなく、こういう英語の詩にしてみたら面白いかもしれません!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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