第234回 冷蔵庫が空っぽだったときに思い出す詩
冷蔵庫を開けたら、めぼしいものが何もなく、献立に頭を抱えてしまうことがありますよね。
果たして、わずかな食材で、満足できる食事は用意できるのか。とてつもなく面倒だけど、やりがいのあるチャレンジ。それが空っぽの冷蔵庫。
そんな時は、大草原の詩を思い出します。
空っぽの冷蔵庫と大草原に何の関係があるのか。まあ、読んでみてください。
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To make a prairie it takes a clover and one bee
Emily Dickinson
To make a prairie it takes a clover and one bee,
One clover, and a bee.
And revery.
The revery alone will do,
If bees are few.
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大草原を作るには クローバーと蜂一匹が要る
エミリー・ディキンソン
大草原を作るには クローバーと蜂一匹が要る
クローバーと蜂一匹
あと 想像力
想像力だけでもいいよ
もし蜂があんまりいなかったら
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詩人の想像力、ここに極まれり、という感じですよね。
クローバーと蜂一匹さえいれば、広大な大草原をイメージでき、そのためには想像力さえあればいいのだと。
そう考えると、わずかな食材であっても、空っぽの冷蔵庫も、空っぽのお腹も満たせそうな気がしませんか。
To make a prairie it takes a clover and one bee,
大草原を作るには クローバーと蜂一匹が要る
大草原には何万本ものクローバーが生えていて、何万もの蜂が飛んでいるわけですが、そのうちの一本、そのうちの一匹さえいれば、何万という規模の大草原をイメージできるのだと。
大きなものの象徴として、prairie「大草原」を取り上げるのが、アメリカ人らしいという気もします。日本人なら、広大なものと言えば何を思い浮かべるでしょうか。やはり、海でしょうか。
And revery.
あと 想像力
詩人の特殊能力として、ひとつの小さなものを見ただけで、はるかに壮大なものをイメージできる、というのがあります。
水の一滴を見て、川や海や空を思い浮かべたり、木の皮一枚を見て、数千年の大地の営みに思いを馳せたり。
現実にはそこにはないものを、まるで実在するかのように考えられること。
想像力を駆使すれば、空っぽの冷蔵庫でも、そこに何かが存在するかのように思える、、、わけないですよね。
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今回の訳のポイント
詩人を特徴づける能力。それが「想像力」です。
The revery alone will do,
想像力だけでもいいよ
この詩でも、~ will do「~さえあれば十分」という表現があるとおり、想像力さえあれば、大草原も自分のものとすることができると言っています。
この「想像力」という言葉に相当するのが、revery です。
「想像力」と言うと、最も一般的なのは、imagination という単語で、文字通り、イメージする思考力です。
一方、この詩にある revery というのは、お花畑的な幻想や夢想に近い意味合いになります。夢見心地というか、心ここにあらずと言うか。
こうした詩人の能力を使って、空っぽの冷蔵庫を前にしても、幻想と夢想の力で、色とりどりの野菜が並ぶ生鮮市場や、ぴちぴちお魚が跳ねる魚市場に行くことができる、、、わけないですよね。