ENGLISH LEARNING

第233回 百円ショップに行ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

百円ショップは、日用品から食品まで、ありとあらゆる商品を取り扱いますが、意外にかわいいアクセサリーがあったりしますよね。

古い詩と、現代の百円ショップ。

このふたつに一体どんな繋がりがあるのかと思うかもしれません。夏から秋への季節の変化を描いた美しい詩なのですが、まあ読んでみてください。

*****

The morns are meeker than they were
Emily Dickinson

The morns are meeker than they were—
The nuts are getting brown—
The berry’s cheek is plumper—
The Rose is out of town.

The Maple wears a gayer scarf—
The field a scarlet gown—
Lest I should be old fashioned
I’ll put a trinket on.

*****

朝がおとなしくなって
エミリー・ディキンソン

朝がおとなしくなって
木の実は茶色くなってきた
ベリーの実は丸々としてきた
バラの季節は終わった

メープルはちょっと派手なスカーフを
草原は深紅のドレスを纏う
野暮ったくなるのは嫌だから
おもちゃのようなのでいいから
アクセサリーでもつけてみようかな

*****

秋の訪れを歌った美しい詩ですが、百円ショップとは何の関係もないじゃないかと思うかもしれません。

結論から言うと、最後の一行にある a trinket というのが、現代で言えば、百円ショップで売られているような「おもちゃのような安物のアクセサリー」のことなんです。

この一行だけで、百円ショップのことを思い浮かべてしまうんです。

The morns are meeker than they were—
The nuts are getting brown—
The berry’s cheek is plumper—
The Rose is out of town.
朝がおとなしくなって
木の実は茶色くなってきた
ベリーの実は丸々としてきた
バラの季節は終わった

夏の暑さがやわらいで秋が近づいてきたことを描いていて、美しいですよね。

この詩が印象的なのは、「朝がおとなしくなって」という一行目。meekという単語は「聞き分けがよくおとなしい」という意味で、朝からむわっと暑い夏から、過ごしやすくなった秋の朝への変化を表すのに、絶妙のチョイスと言えます。

木の実などの色が深まっていくのと入れ替わるように、鮮やかだったバラの季節も終わる。それを表す英語がまた絶妙です。out of town とは「町を離れて」ということなので、もうお呼びではない、季節は終わりだということになります。

The Maple wears a gayer scarf—
The field a scarlet gown—
Lest I should be old fashioned
I’ll put a trinket on.
メープルはちょっと派手なスカーフを
草原は深紅のドレスを纏う
野暮ったくなるのは嫌だから
おもちゃのようなのでいいから
アクセサリーでもつけてみようかな

季節の変化は、気温であったり日暮れの時間であったりで感じるものですが、ここでは衣服やその色の変化に着目しています。

メープルの葉が、赤や黄、橙などの色に染まるのは、ハイブランドの秋色のスカーフのようですよね。草原に咲く真紅の花は、彼岸花ですかね。まさに秋色!

こうしてドレスとスカーフがそろったので、最後の仕上げはアクセサリーになります。

*****

ここでようやく百円ショップの話に戻ってきます。

ポイントは、trinket「安物のアクセサリー」という単語です。ドレスとスカーフはそろっていて、そこに合わせるのがとっておきのギラギラしたジュエリーじゃないのが、いいですよね。

ジャラジャラしたアクセサリーを合わせるのも野暮ったいなと思ったとき、おもちゃみたいなアクセサリーで外すという、おしゃれさんな感じが、個人的にはかなり好みです。

「おもちゃみたいなアクセサリーでしょ。安物なんだけど、かわいいから買っちゃったの!」

そういう無邪気さを感じさせながら、秋の訪れを詩にするなんて、とってもおしゃれだと思いませんか。

*****

今回の訳のポイント

秋の訪れをおしゃれに歌っているこの詩の最大のポイントは、やはり最後の trinket です。

I’ll put a trinket on.
おもちゃのようなのでいいから
アクセサリーでもつけてみようかな

難しいのは、「おもちゃのような安物のアクセサリー」という単語と、そこに付いている a です。

冠詞の a は、「たくさんあるものの中のひとつ」なので、不特定であることを表しながら、この一行を素直に訳すと、「何かおもちゃのような安物のアクセサリーをつけよう」となりますが、説明的で何だか野暮ったいですよね。

でも「アクセサリー」だけでは、おもちゃ感はないんですよね。それで仕方なく、「おもちゃのようなのでいいから」という説明を付け足すことに。

いつか将来「トリンケット」という言葉が市民権を得た暁には、「トリンケットでもつけてみようかな」という訳で済むのですが、もう少し先になりそうですね。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END