第232回 列に並んでいるときに思い出す詩
人生は選択の連続。
はいと言うか、いいえと言うか。今やるべきか、後回しにするべきか。
並ぶべき列は、右か左か。こっちの列の方が早く進みそうだと思ったら、別の列の方が早かったり。
そんな風にして選択を誤ったときに思い出す詩があります。
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A Diamond Or A Coal?
Christina Rossetti
A diamond or a coal?
A diamond, if you please:
Who cares about a clumsy coal
Beneath the summer trees?
A diamond or a coal?
A coal, sir, if you please:
One comes to care about the coal
What time the waters freeze.
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ダイアモンド?それとも石炭?
クリスティーナ・ロセッティ
ダイアモンド?それとも石炭?
じゃあ ダイアモンドで
誰が欲しがるの?あんな石炭
夏の木の下に転がっる石ころみたいな
ダイアモンド?それとも石炭?
やっぱり 石炭を
ひとは欲しくなってくるんだよね
氷が張りだしたら
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ダイアモンドと石炭の二択なら、やはりダイアモンドを選んでしまいますよね。
A diamond or a coal?
A diamond, if you please:
Who cares about a clumsy coal
Beneath the summer trees?
ダイアモンド?それとも石炭?
じゃあ ダイアモンドで
誰が欲しがるの?あんな石炭
夏の木の下に転がっる石ころみたいな
確かに、ダイアモンドも石炭も、炭素から成るというのは同じですが、見てくれが違いすぎますよね。そりゃあ、「じゃあ ダイアモンドで」という返事になるでしょう。
それにしても、clumsy「不格好」というのもずいぶんな言われようです。この単語には「不器用で役立たず」という意味合いがありますが、最終的には、ダイアモンドよりもよっぽど役に立つという、伏線回収につながります。
A diamond or a coal?
A coal, sir, if you please:
One comes to care about the coal
What time the waters freeze.
ダイアモンド?それとも石炭?
やっぱり 石炭を
ひとは欲しくなってくるんだよね
氷が張りだしたら
夏の暑い日には全く役に立たず、見向きもされない石炭。しかし、冬になれば誰もが必要とする必需品!少なくとも、この詩が書かれた19世紀には。
どうしても一見きらびやかなダイアモンドに人は魅せられてしまうのですが、残念ながら、ダイアモンドでは暖を取ることはできません。
こうやって、目先のことに気を取られて、選択を間違うことが人生には多々あります。その度に反省するのですが、結局は、寒空の下でダイアモンドを手に凍えている。それと同じくらい情けない姿で、立ち尽くすことになってしまうという結末。
列に並ぶとき、車線変更するとき、メニューから選ぶとき、オンラインストアでポチっとするとき、「ダイアモンド?それとも石炭?」と、心の中で聞いた方が良さそうですね。
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今回の訳のポイント
飾り気のない言葉で、深いことを言っている短く簡潔な詩というのが、作者クリスティーナ・ロセッティの真骨頂です。言われてみればそうなんだけど、と思うようなことをテーマにして詩にするのが、本当に上手です。
この詩の中では、繰り返しが多いのですが、その中でも care という単語がポイントになります。
One comes to care about the coal
What time the waters freeze.
ひとは欲しくなってくるんだよね
氷が張りだしたら
日本語の「ケア」のような「世話をする」というよりも、ここでは「欲しい」という意味に近いです。もともとは I don’t care.「どうでもいい。自分は気にしない」というフレーズにあるような、「気になる」という意味合いです。
「隣の芝生は青く見える」と言いますが、何を選択しても、他が気になってしまうものです。そういった人間の情けなさを、軽いタッチで表現してくれるのが、クリスティーナ・ロセッティの優しいところだなとつくづく思います。