第231回 奥深い人に出会ったときに思い出す詩
奥深い人。
知れば知るほど新しい魅力を発見してしまって、もっともっと知りたくなる人。
多彩な能力と幅広い活動範囲で、同じ人間と思えない深さと広さを兼ね備えた人。
そんな人に出会ったときに思い出す詩があります。
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Peace
Sara Teasdale
Peace flows into me
As the tide to the pool by the shore;
It is mine forevermore,
It ebbs not back like the sea.
I am the pool of blue
That worships the vivid sky;
My hopes were heaven-high,
They are all fulfilled in you.
I am the pool of gold
When sunset burns and dies—
You are my deepening skies,
Give me your stars to hold.
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おだやかさ
サラ・ティーズデイル
おだやかさが わたしを満たしてゆく
潮だまりを満たす海水のように
このおだやかさは永遠にわたしのもの
潮は引いてゆくものだけど これはちがう
わたしは 青を抱いて
あざやかな空にあこがれる
わたしの願いは 空高く
きみという存在ですべて叶う
わたしは 黄金を抱いて
夕焼けに染まり暗闇が訪れる
きみはわたしの宵の空
きみの星がほしい きみの星を抱きしめたい
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海辺の昼と夜を描きつつ、自分に穏やかさをもたらしてくれる「君」は、夜空にきらめく星々の持ち主なのだと。
これは完全に惚れていますね!
I am the pool of blue
That worships the vivid sky;
My hopes were heaven-high,
They are all fulfilled in you.
わたしは 青を抱いて
あざやかな空にあこがれる
わたしの願いは 空高く
きみという存在ですべて叶う
自分は、pool「潮だまり」として低い地面から、heaven-high「空高く」あれこれを願ってしまう欲張り者。抜けるような青空のように、壮大な思いが次から次へと沸き上がっては空想してしまう。
けれども、それらすべて叶えてくれるのが「君」であると!
They are all fulfilled in you.「きみという存在ですべて叶う」というのは、厳密には、in you「君の中で」なので、君の能力や人柄や、君の可能性や君と過ごす時間など、自分の願いはすべてその人の中にあるもので叶うのだと!
奥深さを感じさせる人って、何か話をしていると、「ひょっとしてこれは?」と聞いてくれて、それが自分の興味や好みにドストライクなんですよね。それで、その話を深堀りすると、なぜかその分野でもとてもオリジナルな経験をしているのが分かって驚くんですよね。
それで、この人ならあの話をしても理解してくれるはずと考えて、思い切って話をすると、やはり想像以上の反応が返ってきて感動するという、終わりのない感動の嵐!
I am the pool of gold
When sunset burns and dies—
You are my deepening skies,
Give me your stars to hold.
わたしは 黄金を抱いて
夕焼けに染まり暗闇が訪れる
きみはわたしの宵の空
きみの星がほしい きみの星を抱きしめたい
水たまりのような自分にとって、「君」は壮大な青空のような憧れの存在。そして、夕焼けの時分には、自分という水たまりも黄金に染まり、そして夜が訪れる。
昼は、青空として壮大に受け止めてくれた「君」は、夜には星空として、可能性の星を散りばめてくれます。
願いや希望や不安、できるかどうか分からないけど興味あることなどを「君」に話すと、自分と同じ目線で聞いてくれつつ、自分の可能性に気づかせてくれたり、別のやり方も教えてくれたりして、またその奥深さに感動するという、、、
そうするうちに、なんだか自分にもできる気がしてきて、やる気とエネルギーが沸いてきて、頑張れそうだと思わせてくれる。
それが奥深い人なのだなと思います。
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今回の訳のポイント
青空や星空という、空のような広さと深さを感じさせる存在に対する、好きの気持ちが爆発している詩ですが、そのタイトルや一行目の Peace をどう訳すかが難しいです。
Peace flows into me
As the tide to the pool by the shore;
It is mine forevermore,
It ebbs not back like the sea.
おだやかさが わたしを満たしてゆく
潮だまりを満たす海水のように
このおだやかさは永遠にわたしのもの
潮は引いてゆくものだけど これはちがう
Peace という単語は、単純に訳せば「平和」となりますが、もう少し、心の「平和」「平穏」に近い言葉にしたくなります。
人生は、人との出会いで作り上げていくものですが、いい出会いもあれば、そうでないのもあるのが人生です。「この人なら!」と期待しては裏切られたり、それは満ち引きを繰り返す潮のようです。
しかし、この詩で描かれているのは、ひたすらに自分を満たしてくれる存在。
プラスなこともマイナスなことも受け止めてくれて、なおかつ受け止めるだけでなく、その人間的な奥深さと幅広さによって、それを可能性として昇華させてくれる存在。
こんな話をしたら面倒くさがれるかな、あの話もしたいけどあれこれ事情を説明しないといけないなとか、そういうことを考えたり、その反応によってこちらの気持ちも下がってしまったり。「ん~、だからそうじゃなくて~」という余計な戦いによって、心が消耗したりザワザワしたりするような、そういう心配を一切しなくていい存在。
そういう人が自分の心を満たしてくれるもの。それは、「おだやかさ」なのではないでしょうか。