ENGLISH LEARNING

第226回 人生の先輩に出会ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

人生の先輩。

自分の百億万倍の苦労と努力を、年の数だけ重ねた先人。

人生の先輩がその生き様を語ってくれると、無限の勇気を与えられる気がします。

そんな時は、ファーガスという伝説の英雄が登場する詩を思い出します。人生の先輩とどんな関係があるのか、まあ読んでみてください。

*****

Who Goes With Fergus?
William Butler Yeats

Who will go drive with Fergus now,
And pierce the deep wood’s woven shade,
And dance upon the level shore?
Young man, lift up your russet brow,
And lift your tender eyelids, maid,
And brood on hopes and fear no more.
And no more turn aside and brood
Upon love’s bitter mystery;
For Fergus rules the brazen cars,
And rules the shadows of the wood,
And the white breast of the dim sea
And all dishevelled wandering stars.

*****

誰がファーガスと行く?
ウィリアム・バトラー・イエィツ

さあ、ファーガスと共に旅立つのは誰だ?
深い森の樹々が織りなす蔭を突きぬけ
広い浜辺で踊るのは誰だ?
若者よ、君の赤茶けた落ち葉色の眉をあげてごらん
乙女よ、君のやさしきまぶたをあげてごらん
希望をいだこう、怖がるのはもうやめよう
目を逸らしたり、思い悩んだり、
愛の苦い神秘に惑わされないで
ファーガスは真鍮の戦車を率い
影深き森を
暗き海の白い波がしらを
思いのままに行き交う星々を支配しているから

*****

ファーガスは伝説の英雄。森を海を、あまねくこの世を支配する英雄。

そんな英雄とともに、人生という苦難の旅を勇ましく歩もうと、詩は呼びかけています。

And pierce the deep wood’s woven shade,
And dance upon the level shore?
深い森の樹々が織りなす蔭を突きぬけ
広い浜辺で踊るのは誰だ?

深い森の樹々が作る蔭のように、人生には暗い瞬間が多くあります。茂る枝葉のように、複雑な状況と様々な思いがもさもさと絡み合って、その暗闇に埋もれてしまいそうになります。

しかし、ファーガスという英雄とともに歩むのに必要なのは、思い切り。堂々巡りの思考の森を突破する行動力。その先で得られるのは、自由なのです。

考えることも大事だけれど、一歩を踏み出すことで状況は変えられるのだという人生の教訓ですね。

And brood on hopes and fear no more.
And no more turn aside and brood
Upon love’s bitter mystery;
希望をいだこう、怖がるのはもうやめよう
目を逸らしたり、思い悩んだり、
愛の苦い神秘に惑わされないで

苦境にあえいでいるときに、尊敬する人生の先輩からこんなことを言われたら、その愛の深さに涙が止まらないのではないかと思います。

ときに悶々とした思いや不安に足がすくんでしまうこともありますが、心に暖めるべきは希望なのだと。

怖さや不安によって、正面から向き合い立ち向かうことができなかったり、人や物事への愛や情熱が必ずしも報われなかったり。しかし、そうしたことに囚われていては、人生を前に進めることができません。

突破するためには、勇気と希望が必要なのですが、そこには幾多の戦いを経て、その傷を勲章とする先人たちがいます。

For Fergus rules the brazen cars,
And rules the shadows of the wood,
And the white breast of the dim sea
And all dishevelled wandering stars.
ファーガスは真鍮の戦車を率い
影深き森を
暗き海の白い波がしらを
思いのままに行き交う星々を支配しているから

影深い森のような思考も、海で砕ける波しぶきのかたちも、あまたの星たちの運行も、コントロールするのはとても難しいものですが、ファーガスはそれを支配している。

同じように、英雄のように思える先人たちの知恵と勇気は、不可能と思えたことを実現したり、変わらないと思えたことを変えたりして、歴史を作ってきました。

今という時代にも、わたしたちにとってのファーガスがたくさんいて、恐れやあきらめでなく、勇気と希望の旗を掲げて、深い森のような今を抜け出そう。そう思えてくるのです。

*****

今回の訳のポイント

この詩の最大のポイントは、brood という単語です。

And brood on hopes and fear no more.
And no more turn aside and brood
Upon love’s bitter mystery;
希望をいだこう、怖がるのはもうやめよう
目を逸らしたり、思い悩んだり、
愛の苦い神秘に惑わされないで

ここでの brood という単語は、brood on (upon)という形で「~についてくよくよ考える」という意味になります。もともと on (upon) という前置詞は、物体への接着・物事への粘着というトーンがあって、「忘れてしまえばいいのに!」という物事が、いつまでも悶々と心にこびりつくイメージがあります。

プラスに捉えるのであれば、その思いを大切に心につなぎとめておく、と考えることもできます。不安や悩みは心にこびりついてしまうもので、希望も失われがちだからしっかりと心につなぎとめておく必要があるという、人生についての愛に満ちたアドバイス。

自分にとってのファーガス、自分の身の回りの英雄たちを見るたびに、この詩が行進曲のように、弱った心を鼓舞してくれるように思えます。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END