第222回 王様になりたいと思ったときに思い出す詩
王冠をかぶって、お城に住んで、王国を支配する。
おとぎ話に出てくるような王様の暮らしってどんなだろうと、子どもみたいなことを考えていたら、ある詩を思い出しました。
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Happy Thought
Robert Louis Stevenson
The world is so full of a number of things,
I’m sure we should all be as happy as kings.
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ゆかいな考え
ロバート・ルイス・スティーブンソン
この世の中にはいろんなことがいっぱいある
ぼくらはみんな王様みたいに楽しいはずだよ
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って、王様の暮らしについては、何も書いてないんかい!
たった2行の詩ですが、実は、子ども視点で書かれているんです。
The world is so full of a number of things,
この世の中にはいろんなことがいっぱいある
王様が支配する領地には森や畑や町があって、人がいて家畜がいて、森には獣がいて、それが人々にとっての世界です。
子どもの視点で考えてみると、世の中というのは、多種多様な刺激とチャンスに溢れた場所です。
財宝のような幸運に出会うかもしれませんし、狼のような危険にさらされる場合もあるのです。そうした玉石混交の混沌の中を生き抜いていかなければなりません。
これは、子どもに限った話でなく、大人になってからも同じです。刺激とチャンスに溢れた世の中で、自分の進むべき道をわたしたちは選び取っていきます。
I’m sure we should all be as happy as kings.
ぼくらはみんな王様みたいに楽しいはずだよ
そうした幸運と危険が隣り合わせの世界で、様々な経験をして、人は成長していきます。
本物の王様のように世の中を支配することはできなくても、身の回りの世界を最大限に使って遊び学ぶことで、子どもは自分で自分のことを決められるようになります。
それは世の中を支配する王様と同じように、偉大なことと言えます。
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今回の訳のポイント
この詩のキーワードは、happy です。
ひとつはタイトルとして、もうひとつは王様との比較として登場します。いずれも「幸せな」や「幸福な」と訳してもあまり意味がありません。
Happy Thought
ゆかいな考え
Happy Thought とは、あることを頭の中で考えたときに、思わずニヤニヤしてしまいそうになるような考え。子どもが、自由で素朴な発想で考えることとなると、それは「幸せな」というよりも、ワクワクするような「ゆかいな」という言葉に近くなります。
I’m sure we should all be as happy as kings.
ぼくらはみんな王様みたいに楽しいはずだよ
そして、もうひとつの happy はどうでしょう。
世の中の様々なものを支配し自由にできるのが王様で、子どもも身の回りの世界を最大限に活用して、自分の意志で決められることを増やしていきます。そこで挑戦をして成長し大人になっていきます。
スポーツ選手が大事な試合を前にして「楽しみたいです」というのと同じように、試行錯誤を重ねてきた成果を本番で試してみるときの、いい意味の緊張とワクワク感が、ここでの happy の意味に近いと言えます。
時間や労力を賭ける価値があると自分が思ったものに打ち込んでみる。良い結果も悪い結果も出る中で、学びを重ねてゆく。それは、happy「楽しい」と思えるはずです。