第220回 1000という数字を見たときに思い出す詩
千は千でも「千の眼」と言われると、どんなものをイメージしますか。
気味の悪い怪奇物語の一場面のようですが、千という数字を見ると、「千の眼がある」という奇妙奇天烈なフレーズがある、とある詩を思い出してしまいます。
「千の眼」と言っても怪奇現象のような詩ではなく、知性と愛を歌った美しい詩なので、怖がらずに読んでみてください。
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The Night Has A Thousand Eyes
Francis William Bourdillon
The night has a thousand eyes,
And the day but one;
Yet the light of the bright world dies
With the dying sun.
The mind has a thousand eyes,
And the heart but one:
Yet the light of a whole life dies
When love is done.
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夜には千の眼がある
フランシス・ウイリアム・ブーディロン
夜には千の眼がある
昼には一つの眼だけしかない
でも 明るい世界の灯火は消えてしまう
日没とともに
頭には千の眼がある
心には一つの眼しかない
でも 人生の全てのような灯火は消えてしまう
愛が終わるとき
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夜と昼、頭と心を対比させ、短くも美しい詩になっていると思いませんか。
The night has a thousand eyes,
And the day but one;
夜には千の眼がある
昼には一つの眼だけしかない
「千の眼」と言っても、空に浮かぶ千の目ん玉では、怪奇物語になってしまいますが、ここでは夜空に煌めく幾千もの星々。
一方で、昼間の空には、昼の唯一の光である太陽があります。それが沈むと昼の世界は終わりを告げます。
ここまでだけであれば、自然をただ美しく描写しただけの詩になってしまいます。この詩が美しいのは、さらに、愛についても歌っているからです。
Yet the light of a whole life dies
When love is done.
でも 人生の全てのような灯火は消えてしまう
愛が終わるとき
日が沈むと暗闇が訪れるように、人生を賭けた愛が終わると、生涯の灯火が消えたように感じる。自分の世界も暗闇に包まれてしまう。
なかなか強烈なひと言ですよね。愛が終わったときの悲しみや苦しさを知っている人間には、あれこれと描写せずに、このひと言で済ませてくれているのが、せめてもの救いとも言えます。
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今回の訳のポイント
この詩の最大のポイントは、日本語の「心」に相当する語です。日本語では、mind も heart もどちらも「心」と訳される場合がありますが、英語では大きく異なります。この違いを説明したいがために、この詩を紹介したと言っても過言ではありません。
The mind has a thousand eyes,
And the heart but one:
頭には千の眼がある
心には一つの眼しかない
英語の mind は知性や記憶の働く場としての「頭脳」であり、heart は感情や感性が働く場としての「心」と言えます。
とすると、「頭には千の眼がある」というのは、知性や論理によって、様々な見方をすることを指し、物事を考えるときの視野や視点を複数持つことだと言えます。
一方で、心は一つしかなく、想いの全てを何かに捧げてしまうこともあるのだと。頭では分かっていても、心が自分の全てを動かしてしまうときがあるのだと。
これは色恋に限らず、人生の中で下す決断にも当てはまりますよね。損得勘定を超越して、自分の心を動かすものに賭けてみる。
そう考えてみると、自分は千の眼が欲しくて、たくさんの本を読んだりたくさんの人に会ってきましたが、一つの心もずっと大切にしていたいなと思います。
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