第216回 「がんばって」と言われたときに思い出す詩
他の動物にない、人間だけがもつ特殊能力と言えば、「がんばって」と人を励ますことなのかなと思うことがあります。
ただ、「がんばって」と言われたあとが大事なんですよね。熱く語り合ったあとに、ちゃんと行動に移せるかどうか。
「うん、がんばる!」と言いながら、ふと頭に浮かぶ詩があります。
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My life has been the poem I would have writ
Henry David Thoreau
My life has been the poem I would have writ
But I could not both live and utter it.
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僕の人生は書かなかった詩
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー
僕の人生は書かなかった詩
その詩を生きることも口にすることもなかった
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えっ、2行だけ?
そう思ってしまうのですが、何だかよく分からないけど、ものすごく深さを感じさせるこの詩。
My life has been the poem I would have writ
僕の人生は書かなかった詩
まず、英語の文法的には、would haveが使われているので「仮定」を表しています。つまり、「書こうと思えば書けた詩」であると。「書こうと思えば書けた」ということは、実際には「書いていない」ということになります。
それがどういうことなのかは、次の行を読むと分かります。
But I could not both live and utter it.
その詩を生きることも口にすることもなかった
ひとことで言うと、人生は書いたり話したりするものでなく、生きるもの。人生を、詩として書くのでなく、詩として生きるのでなく、シンプルに生きたんだ。だから、書くこともできたけど書くことはなかった。
言葉を操る詩人である人が、詩で表現するのでなく生きることで表現したんだ、というのがカッコよすぎですよね。
大人になると、言葉を操れてしまうだけに、考えたり話し合ったりして、問題を解決したり気持ちを整理しようとするのですが、気持ちを行動で示すという根源的な人間性を思い出しますね。言葉を知らない赤ちゃんは、お腹が空けば泣きますし、シャボン玉が浮かんでいれば走り出します。
あの素朴さで行動に移せるかと言うと、なかなか難しいのが現実ですよね。
辛いとき苦しいとき、「がんばって」と言われたとき、それに対して言い訳や自分の解釈をこしらえようとするのですが、まずは今日一日を生きて、手や足を動かしてみること。宿題が難しいと言う前に、ページをめくって、ノートを広げて、鉛筆を握るところから始めること。
そこが一番きついんですが、詩人だって鉛筆を握らずに生きたのだからと、言い聞かせるしかない!
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今回の訳のポイント
この詩の最大のポイントは、the です!
My life has been the poem I would have writ
僕の人生は書かなかった詩
The とは、読む人もイメージできるもの。それは前後で言及するからイメージできるという場合もあれば、社会一般としてイメージできるという場合もあります。
もし一行目が、My life has been a poem だと、人生についてのとある一遍の詩となりますが、ここでは、the poem としているので、詩というもの、そのものを指していると言えます。
つまり、「詩と言えば何となく分かるでしょ?イメージとか感情とか思いとかがでてくるやつ」というわけです。
自分の人生にも、詩のようにイメージや感情や思いがあったが、それを言葉として書き付けたわけではなく、詩を生きたのでもなく、人生そのものを生きた。
詩人にそう言われたら、自分も行動に移すしかないですよね!
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