第211回 素直になれないときに思い出す詩
恋に、人生に、素直になれないのは何故でしょう。
若草萌える春。思いのままに伸び伸びと萌える草を見ていたら、とある甘酸っぱい詩を思い出しました。
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Down By The Salley Gardens
William Butler Yeats
Down by the salley gardens my love and I did meet;
She passed the salley gardens with little snow-white feet.
She bid me take love easy, as the leaves grow on the tree;
But I, being young and foolish, with her would not agree.
In a field by the river my love and I did stand,
And on my leaning shoulder she laid her snow-white hand.
She bid me take life easy, as the grass grows on the weirs;
But I was young and foolish, and now am full of tears.
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柳の園のほとりで
ウィリアム・バトラー・イェイツ
柳の園のほとりで 愛しい人と僕は会った
真っ白な足をした君は 柳の木々の間をぬけ そして言った
「木の葉が芽吹くみたいに 流れに身を任せて 恋しようよ」
でも 若く愚かだった僕は 「うん」とは言わなかった
川のほとりの野原に 愛しい人と僕は立ち
寄り添う肩に 君はその真っ白な手を置き そして言った
「土手の草が伸びるみたいに 素直に 生きてみなよ」
でも 若く愚かだった僕は 今こうして涙に暮れている
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「若く愚かだった」
このひと言の破壊力が強烈ですね。
難しいことを考えずに、思いのままに愛し生きられたら、どんなに楽だろうか。
She bid me take love easy, as the leaves grow on the tree;
「木の葉が芽吹くみたいに 流れに身を任せて 恋しようよ」
柳の木々の間を歩きながら、こんなひと言を言われたら、すかさず「そうだね!」と言って手をつないで歩いていけば良いのですが、若く愚かだとそう簡単にいきません。
But I, being young and foolish, with her would not agree.
でも 若く愚かだった僕は 「うん」とは言わなかった
おーい、若者よ!そこは素直になっておこうよ!好きなら好きで、とりあえず一緒にいてみたらいいじゃん!
そう言うのは簡単なんですが、人生の様々なタイミングの中で、思いのままに物事を決めただ前を見て歩くということができないときもあるのがつらくもあり、人生を深くもしてくれるんですよね。
She bid me take life easy, as the grass grows on the weirs;
「土手の草が伸びるみたいに 素直に 生きてみなよ」
春の小川が太陽にきらめきながらさらさらと流れてゆく。川の土手には草が茂りさわさわと風に揺れている。
最高に爽やかな瞬間に、最高に爽やかな言葉!
自分のことを深くまっすぐに理解してくれているからこその言葉。余計なことに囚われずに、あなたがあなたらしく思いのままに生きるだけで、あなたは幸せになれる、ということを彼女は分かっているんですよね。
こんなこと言われたら、そりゃもう、ただ「うん」と返事して見つめ返すだけで良いんですが、それができないときが人生にはあるんですよね。自分だけの問題でなかったり、どうしても進まなければいけない道があったり、頭と心が別の方向を向かなければいけないときが。
But I was young and foolish, and now am full of tears.
でも 若く愚かだった僕は 今こうして涙に暮れている
結局、今は涙に暮れるしかない。
あのとき「うん」と言っていれば、自分の人生は、ふたりの人生はどうなっていただろうか。自分は、ふたりは幸せになれただろうか。
そんなことを考えたって仕方がないし、未来に向かってすべきことをしていかなければならない。でも、この痛みが一歩を踏み出すたびにズキズキしてしまって、やっぱりまた素直になれなかったり。
そうすると、また涙がこぼれてしまうんですよね。
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今回の訳のポイント
若さゆえに素直になれなかった自分を振り返るこの詩。
迷わずに、思いのままに、素直に愛し生きることができたら。そんなテーマが描かれていますが、作者イェイツ自身を歌っているのではないというのがポイントです。
とある農婦が口ぐさむ古い民謡をもとにしたと言われています。
アイルランドを代表する詩人のイェイツは、祖国の文芸復興に取り組んだ詩人で、こうした民謡や民話、神話、伝説の類いを収集し、また、それを自分自身の作家活動にも生かしました。
日本にも古くから愛される唱歌や民謡がありますが、この詩は歌曲にもなっていて、日本で言うところの「春が来た」と同じくらいの愛唱歌になっています。
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訳すうえでの最大の難関は、この詩の最重要箇所です。
She bid me take love easy, as the leaves grow on the tree;
「木の葉が芽吹くみたいに 流れに身を任せて 恋しようよ」
She bid me take life easy, as the grass grows on the weirs;
「土手の草が伸びるみたいに 素直に 生きてみなよ」
例えば、 Take it easy.と言えば、「大丈夫」「落ち着け」「気楽にいけ」となりますし、Don’t take it seirously.と言えば、「深刻に受け止めるな」「真に受けるな」というようになるので、この箇所も「愛や人生を深刻に受け止めすぎずに気楽に受け止めて」と言えます。
そして、いつものことながら、名詞を動詞的に訳すと、生き生きとした日本語になります。
「愛を気楽に受け止めて」は「流れに身を任せて恋しよう」となり、「人生を気楽に受け止めて」は「素直に生きてみて」となります。
それに対する返事も、日本語に訳すのが難しいです。
But I, being young and foolish, with her would not agree.
でも 若く愚かだった僕は 「うん」とは言わなかった
助動詞の would not は「どうしても~しようとしない」なので、直訳すると「僕はどうしても同意しようとしなかった」って!恋は、契約か何かですか!という突っ込みをしたくなりますよね。
「同意」するとき、人は何と言うか。
そう!「うん」ですよね。
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