第209回 風邪を引いたときに思い出す詩
風邪を引いたひいたときに思い出す詩って、風邪を引いていたら詩を読む余裕なんてない気もするんですが、でもやっぱりそんな詩があるんです。
ゲホゲホいいながら、さみしくベッドに横になっていると思い出す詩が。
体調が悪くて辛すぎるときのイメージで、この美しい詩を読んでみてください。
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Pain
Sara Teasdale
Waves are the sea’s white daughters,
And raindrops the children of rain,
But why for my shimmering body
Have I a mother like Pain?
Night is the mother of stars,
And wind the mother of foam—
The world is brimming with beauty,
But I must stay at home
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痛み
サラ・ティーズデイル
波は 海の白き娘たち
雨粒は 雨の子どもたち
でも わたしの熱を帯びた体には
なぜ痛みというお母さんなんだろう
夜は 星々の母
風は 波しぶきの母
世界は美しさに満ちている
でも わたしは家にいなきゃいけない
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美しい詩なんですが、どうしても風邪引きの詩にしか読めないんです、この詩。
Waves are the sea’s white daughters,
And raindrops the children of rain,
波は 海の白き娘たち
雨粒は 雨の子どもたち
大きな海から波は生まれ、空に降る雨から生まれ落ちてくるのは雨粒。この大いなるものと、それを成り立たせている小さきものとの対比が美しいですね。
But why for my shimmering body
Have I a mother like Pain?
でも わたしの熱を帯びた体には
なぜ痛みというお母さんなんだろう
せっかくいい感じに美しい流れだったのに、突然、苦しむ自分が登場。
痛みという大きな母から、産み落とされた痛みに悶える自分。のどの痛みだったり、頭痛だったり、真っ赤に腫れあがっている患部のイメージですね。
Night is the mother of stars,
And wind the mother of foam—
The world is brimming with beauty,
夜は 星々の母
風は 波しぶきの母
世界は美しさに満ちている
最高に美しい3行ですよね。この3行だけで、地球という惑星の奇跡を感じられます。壮大な星空のビジュアルと、風や波しぶきというアクションを含む言葉が脳髄にまで届いて、人間としての根源的な何かを感じられますよね。
But I must stay at home
でも わたしは家にいなきゃいけない
そうやって、大自然の営みに感動したのも束の間、まさかの「わたしは家にいなきゃいけない」って!
このスケールダウンの大きさ!
せっかくいい感じにこの星の奇跡に震えていたのに、最後の「わたしは家にいなきゃいけない」が、素朴すぎて、思わず笑いをこらえられずに肩を震わせてしまいます。
これが詩の良さですよね。短いからこそ、ジェットコースターのようなアップダウンの大きさが強烈に襲ってくる。
風邪引きのみじめさに泣きたくなったら、この詩を読んで、可笑しさに肩を震わせることにします。
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今回の訳のポイント
この詩の最大のポイントは何といっても、最終行。
But I must stay at home
でも わたしは家にいなきゃいけない
そのポイントは、mustです。
日本語では、「~しなきゃいけない」となりますが、英語ではhave to「(仕方なく)~しなきゃいけない」と、must「(絶対)~しなきゃいけない」という違いがあります。
お医者さんに言われたんでしょうね。「安静にしていなさい」って。
う~ん、「世界は美しさに満ちている」からの「お医者さんに言われたから家で寝てなきゃいけない」という読み取り方がツボにはまってしまって、ロマンチックな世界に帰れません。誰か助けてください!
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