ENGLISH LEARNING

第209回 風邪を引いたときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

風邪を引いたひいたときに思い出す詩って、風邪を引いていたら詩を読む余裕なんてない気もするんですが、でもやっぱりそんな詩があるんです。

ゲホゲホいいながら、さみしくベッドに横になっていると思い出す詩が。

体調が悪くて辛すぎるときのイメージで、この美しい詩を読んでみてください。

*****

Pain
Sara Teasdale

Waves are the sea’s white daughters,
And raindrops the children of rain,
But why for my shimmering body
Have I a mother like Pain?
Night is the mother of stars,
And wind the mother of foam—
The world is brimming with beauty,
But I must stay at home

*****

痛み
サラ・ティーズデイル

波は 海の白き娘たち
雨粒は 雨の子どもたち
でも わたしの熱を帯びた体には
なぜ痛みというお母さんなんだろう
夜は 星々の母
風は 波しぶきの母
世界は美しさに満ちている
でも わたしは家にいなきゃいけない

*****

美しい詩なんですが、どうしても風邪引きの詩にしか読めないんです、この詩。

Waves are the sea’s white daughters,
And raindrops the children of rain,
波は 海の白き娘たち
雨粒は 雨の子どもたち

大きな海から波は生まれ、空に降る雨から生まれ落ちてくるのは雨粒。この大いなるものと、それを成り立たせている小さきものとの対比が美しいですね。

But why for my shimmering body
Have I a mother like Pain?
でも わたしの熱を帯びた体には
なぜ痛みというお母さんなんだろう

せっかくいい感じに美しい流れだったのに、突然、苦しむ自分が登場。

痛みという大きな母から、産み落とされた痛みに悶える自分。のどの痛みだったり、頭痛だったり、真っ赤に腫れあがっている患部のイメージですね。

Night is the mother of stars,
And wind the mother of foam—
The world is brimming with beauty,
夜は 星々の母
風は 波しぶきの母
世界は美しさに満ちている

最高に美しい3行ですよね。この3行だけで、地球という惑星の奇跡を感じられます。壮大な星空のビジュアルと、風や波しぶきというアクションを含む言葉が脳髄にまで届いて、人間としての根源的な何かを感じられますよね。

But I must stay at home
でも わたしは家にいなきゃいけない

そうやって、大自然の営みに感動したのも束の間、まさかの「わたしは家にいなきゃいけない」って!

このスケールダウンの大きさ!

せっかくいい感じにこの星の奇跡に震えていたのに、最後の「わたしは家にいなきゃいけない」が、素朴すぎて、思わず笑いをこらえられずに肩を震わせてしまいます。

これが詩の良さですよね。短いからこそ、ジェットコースターのようなアップダウンの大きさが強烈に襲ってくる。

風邪引きのみじめさに泣きたくなったら、この詩を読んで、可笑しさに肩を震わせることにします。

*****

今回の訳のポイント

この詩の最大のポイントは何といっても、最終行。

But I must stay at home
でも わたしは家にいなきゃいけない

そのポイントは、mustです。

日本語では、「~しなきゃいけない」となりますが、英語ではhave to「(仕方なく)~しなきゃいけない」と、must「(絶対)~しなきゃいけない」という違いがあります。

お医者さんに言われたんでしょうね。「安静にしていなさい」って。

う~ん、「世界は美しさに満ちている」からの「お医者さんに言われたから家で寝てなきゃいけない」という読み取り方がツボにはまってしまって、ロマンチックな世界に帰れません。誰か助けてください!

 

【英語力をアップさせたい方!無料カウンセリング実施中】
これまで1700社以上のグローバル企業に通訳・翻訳・英語教育といった語学サービスを提供してきた経験から開発した、1ヶ月の超短期集中ビジネス英語プログラム『One Month Program』
カウンセリングからレッスンまですべてオンラインで行います。
One Month Program

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END