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第207回 誤解していたときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

人を誤解してしまうときってありますよね。

怖い人かと思ったらものすごく優しい人だったとか。怒っているのかと思ったら別に何とも思っていなかったとか。

そんな風にして、人を誤解していたときに思い出す詩があります。

義足の男の人と、ギャーギャー鳴く鳥を描いた詩なのですが、どんな関係があるのか。まあ、読んでみてください。

*****

The Man with the Wooden Leg
Katherine Mansfield

There was a man lived quite near us;
He had a wooden leg and a goldfinch in a green cage.
His name was Farkey Anderson,
And he’d been in a war to get his leg.
We were very sad about him,
Because he had such a beautiful smile
And was such a big man to live in a very small house.
When he walked on the road his leg did not matter so much;
But when he walked in his little house
It made an ugly noise.
Little Brother said his goldfinch sang the loudest of all birds,
So that he should not hear his poor leg
And feel too sorry about it.

*****

義足の男の人
キャサリン・マンスフィールド

うちのすぐ近くに住む男の人がいた
彼の足は木の義足で 緑の鳥かごに色鮮やかな鳥を飼っていた
彼の名前はファーキー・アンダーソン
戦争に行って足を失ってしまったのだった
私たちは可哀想に思っていた
なぜって 彼の笑顔はとても素敵なのに
大きな身体で小さな家に住んでいたから
通りを歩くときは 義足でも何ら問題なかったのだけど
家の中を歩くと
ガチャガチャとひどい音がするのだった
私の弟は言った
「アンダーソンさんのところの鳥が なんであんなにギャーギャー鳴くかって
だって 義足で歩く音も聞こえなくて済むでしょ
鳥も可哀想に思ってるんだよ」

*****

木の義足をしているから、家の中を歩くと、ガチャガチャと音がする。

鳥がギャーギャーとうるさいなと思っていたけど、実は理由があるかもしれない。

もしかしたら、義足がガチャガチャと言う様子に、鳥もいたたまれなくなって、その音をかき消そうと鳴いているのかもしれない。

とっても優しい弟くんですねえ。

*****

優しいのは、弟くんだけではありません。この詩の語り手も、独特の優しさを持っています。

We were very sad about him,
Because he had such a beautiful smile
And was such a big man to live in a very small house.
私たちは可哀想に思っていた
なぜって 彼の笑顔はとても素敵なのに
大きな身体で小さな家に住んでいたから

可哀想なのは、戦争で足を失ってしまったとか、義足っていうことの方でなく、「大きな身体で小さな家に住んでいたから」なのだと!

不思議の国のアリスか~い!と突っ込みたくなりますが、実際のところ、自分のみじめさって、こういう些細なところから感じてしまったりするんですよね。

時間がなくて大切な人のそばにいれないっていう事実があるときに、ただでさえ時間が惜しいのに、背中を丸めて一生懸命に黙々とアイロンがけをしている自分。イライラして今にも爆発しそうなのに、そ~っと注意深く慎重にコーヒーを淹れている自分。

*****

そんな優しい詩の結末に登場するのが、ギャーギャー鳴く鳥。

Little Brother said his goldfinch sang the loudest of all birds,
So that he should not hear his poor leg
And feel too sorry about it.
「アンダーソンさんのところの鳥が なんであんなにギャーギャー鳴くかって
だって 義足で歩く音も聞こえなくて済むでしょ
鳥も可哀想に思ってるんだよ」

目の前に見える事実は、世界で一番うるさい鳥かのごとく、鳥がギャーギャー鳴く様子。しかし、その鳥も思っていることがあるかもしれない。

見た目に現れる行動があるけれど、それは表現しきれない思いが不格好に現れているだけに過ぎない。そこを、私たちは見誤って、人を誤解してしまうことがあるんですよね。

ギャーギャー子どもが泣くのは、ただ騒ぎたくて騒いでいるのでなく、お腹が空いているか、おしめが汚れているから。

親は子どもをしつこく叱ったりします。別にそれは子どものことを許せないのでなく、子どもの安全や未来を思っているから。

自己主張が強く人に圧をかけてしまうのは、理不尽な人間だからなのではなく、弱肉強食の世の中の厳しさを知るからこそ、自分の弱さを見せてはいけないと信じているから。

人を誤解してしまいそうになったとき、ギャーギャー鳴く鳥を思い浮かべながらそんなことを考えると、もっと優しい自分になれる気がします。

*****

今回の訳のポイント

短編小説の一節のようで、最後にハッとさせられるこの詩。

英語としてのポイントは、義足になってしまった理由が述べられている、この行にあります。

And he’d been in a war to get his leg.
戦争に行って足を失ってしまったのだった

普通、getという単語を見ると、何かを手にすることをイメージしますが、ここでは戦争の結果として足はどうなったかというと、「奪われた」としか言えないですよね。

文字通りに訳しても、意味をなさない。見た目や表に現れる行動だけにとらわれてしまっては、人を真に理解することはできない。そんなことを考えてしまいます。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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